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幕間

「海とは、とてつもなく大きいのですねぇ」  山道からも何度か目にしているはずなのに、初めて見たかのように感嘆の声を上げる姿は美しいというよりかわいい。金花は俺によく「かわいい方」と言うが、いまの金花のほうこそ“かわいい方”そのものだ。  そんなふうに見ている俺の視線に気づいたのか、砂をきしきしと踏みしめながら金花が近づいてきた。 「そんなに笑わなくてもよいではないですか」 「笑ってはないだろう?」 「いいえ、目が笑っています。それに口も」  細い指がするりと俺の口を撫で、口の端を爪でかりと引っ掻いて離れた。 「カラギは海を見たことは?」 「以前、熊野へ行く際に淀川から渡辺津まで足を延ばしたことがある。そのときに見たことがあるが、これほど開けた海を見たのは初めてだ」 「では、二人そろって初めて見た海ということですね」 「……そうだな」  金花の言葉に胸が甘く疼いた。  東国へ向かう旅に出てからというもの、金花は何度か同じようなことを口にしている。  初めて二人で向かう(あずま)、初めて二人で食べる魚、二人で船に乗ったのも初めてで、あのときの川下りでは珍しく腰が引ける金花の姿を見ることができた。金花いわく「水の上を延々と行くなど、人はなんと恐ろしいことを考えるのか」とのことらしいが、何事にも怯えることがない金花の意外な一面を見ることができたのは嬉しかった。  そうして今度は二人で初めて見る海、初めて歩く大きな浜、といったところだろうか。 (二人で(・・・)と付けるところが気になるが)  まるで二人での旅が最後のように聞こえてしまうのは気のせいだろうか。俺としては東国でしばらく過ごした後、鬼の王のところへ案内してもらうつもりだった。しかしどういった反応をするか想像ができず、いまだに金花に話すことができないでいる。 (鬼の王のところへ行きたいなどと言えば、その理由を訊かれるだろうしな)  俺の考えていることに驚くか、それとも駄目だと止めるか。  ぱしゃん!  考え事をしていた俺の顔に冷たい水がかかった。  ハッと見ればいつの間にか水際まで来ていたらしく、足元では波が来たり引いたりしている。俺の少し先にはかがんだ金花がいて、懲りずにまた手で救った水を俺にかけようとしていた。 「金花!」 「ぼうっとしているからですよ。せっかくの海なのだから、楽しまなければもったいないでしょう?」 「だからと言って、水をかけるというのはどういうことだ」 「ふふっ、濡れたあなたもかわいいですよ?」  そう言って笑っている金花のほうこそ……と思いながら身をかがめる。やられたままでなるものかという気持ちと、せっかく金花と海へ来たのだから楽しむべきだという思いで、久しぶりに童心のように胸が高ぶった。そんな俺の顔に再び水がぱしゃりとかかる。 「……ッ! 金花、またもや先にかけるとは卑怯な!」 「ふふっ、ぼうっとしているカラギが悪いのですよ」 「こらっ、かけ逃げとは卑怯だぞ!」 「カラギは何にでも真面目ですねぇ」  二度も水をかけてきた金花は、ニィと笑みを浮かべたまま足音を立てずに岩場の方へと走って行く。逃してなるものかと追いかけた先は大小の岩がでこぼこと出ている場所で、大きな岩ともなれば俺の背丈を優に超えるほどだった。 「これはまた、見事な岩だな」 「あちらは砂で、こちらは岩。海とはおもしろいものですねぇ」  岩を撫でながら金花が感心したようにつぶやいている。童のように笑ったかと思えば学者のような顔をする金花に見惚れていると、額から汗がぽたりと落ちてきた。 「ふぅ、動いたからか暑いな。一番暑くなる前にと思って旅に出たが、そうでもなかったか」 「汗を拭きましょうか? あぁ、それよりいっそのこと水に浸かってしまえばよいのでは?」 「金花、海は塩からい水だぞ。乾いたら塩が残ってしまうだろう」 「なるほど、そうなのですね。せっかく冷たくて気持ちがよいのだから、全身浸かれば心地よいと思うんですけれどねぇ」  そういえば金花は、屋敷にいる間もよく水を被っていた。しょっちゅう水を被っていた師匠を見慣れていた俺には珍しくもなかったが、女房たちに見られでもしたら大騒ぎになっていたことだろう。  そのあたりはうまく見られないようにしていたようだが、ではどうして濡れたまま俺の前に現れるんだと何度思ったかわからない。着物が肌に張りついている様子は大層いやらしく、なぜそんな格好をしているのかと腹が立つことが何度もあった。 (いまならわかる。あれはわざとだったのだろうな)  俺が慌てふためくのを楽しんでいたに違いない。もしくは、俺を滾らせたかったのか。 (後者が狙いのような気もするが)  それにしても鬼は水を好むものなんだろうか。いや、船には抵抗があったようだし、単に金花が水を被るのが好きなだけかもしれない。  そんなことを考えていた俺を金花が覗き込んできた。見ればニィィと笑みを深くしている。 「せっかくの海なのですから、やはり被ってみたいと思いますよねぇ?」 「金花、おまえ……!」  目の前でパパッと着物を脱いだかと思えば、薄い単一枚で海の中へと入ってしまった。しかも足元まで裸足だ。  前々から思っていたのだが、金花はなぜこれほど早く着物を脱ぐことができるのだろうか。それに俺のを脱がせるのも異様に早い。いや、いまはそんなことなどどうでもいい。 「金花、あまり遠くへ行くなよ! 奥は意外と深いかもしれないのだぞ!」 「ふふっ、カラギも入ってみてください。ほどよく冷たくて心地よいですよ」 「わかったから、ほら、その岩のところで待っていろ!」  慌てて着物を脱ぎ捨て、単一枚で金花のあとを追った。 「……!」  踏み入れた足に触れる水は思いのほか心地よく、なるほど金花の言うとおりだと感心した。川で泳いだことはあったがこうして海に浸かったのは初めてで、想像よりもずっと心地いいことに驚く。  こういうことも旅の思い出によいのかもしれないなと思いながら、岩場でおとなしく待っている金花の元へと近づいた。この辺りはちょうど足の付け根まで浸かるかどうかの深さで、これなら溺れる心配はないだろうと安堵する。 「ね、心地よいでしょう?」 「それは結果だろう。もし底が深ければ溺れてしまうかもしれないのだぞ?」 「おぉ、それは怖いこと。では、わたしはカラギに掴まっておくことにします」  そう言って金花が海から腕を引き上げた。細い腕には袖がまとわりつき、細くしなやかな様子を強調しているかのように見える。それにうっすらと透けている肌がなんともいやらしく、思わず目を逸らしてしまった。  そんな俺にふふっと笑った金花は、濡れたままの腕を俺の首にくるりと回し抱きつくように身を寄せてきた。おかげで互いの胸がぴたりとくっつき、体の熱とふわりと漂う伽羅の香りを否が応でも感じる。 「ふふっ、相変わらず体は素直だこと」 「う、うるさい!」  着物が張りついた乳首の様子をちらりと目にしてしまったせいで、うっかり兆し始めた逸物を金花の太ももが押し上げようとしていた。そんなことをされれば……。 「あっという間に逞しくなって、本当にかわいい方」  ぴたりと身を寄せ、今度は胸を擦り合わせるように上半身を揺らしてくる。尖った乳首に擦られるせいで、俺の乳首までピンと硬くなってしまった。 「金花、」  コリコリと乳首同士を擦り合わせながら、器用に己の逸物で俺のものを撫で擦る。全身を擦られているような感覚に、ここが海の中だと忘れたかのように頭がぼうっとしてきた。 「……キツラ」 「ぁ……ん、」  名を呼んでから、白く形のよい耳の中に舌を這わした。穴を舐め回すように舌先を動かすと、首筋がぞわぞわとするのだと言ったのは金花……キツラで、それは不快ではなく心地よいのだろうということは身悶える様子でわかった。  それを思い出し、耳の中を舐め回してやる。予想していたよりもずっと心地よいのか、キツラの口からハァハァと甘い吐息が漏れ始めた。 (俺とて、やられっぱなしではないぞ)  これまで散々キツラに仕掛けられてきたが、俺から仕掛けることもできるのだ。  耳を舐め回しながら、腰を支えていた両手でするりと尻を撫でた。「ふぁ」と喘ぐ声に気をよくした俺は、張りついた着物をたくし上げて素肌の尻を何度も撫で、さらに揉みしだくように手に力を込める。ぐっぐっと尻たぶに指を食い込ませて揉み、少しずつ割れ目へと指を這わせた。  俺にもたれかかったままの金花は「ぁ」と小さく声を上げたが、それを気にすることなく両手の指で尻たぶをがしりと掴み、割れ目を思い切り掴み広げた。 「ぁあ、」 「ちょうど海の水がかかるか、いや水際といった感じか」 「駄目、広げては、水が、入って、しまう」 「さすがに入りはしないだろう? それとも、俺がほしくてもう開いてしまったのか?」 「ぁ……ん!」  両手の指でやや膨らんでいる縁をぐいっと押し開くと、キツラの体がびくりと大袈裟なほど震えた。冷たい水に触れたせいで驚いたのだろう。逸物に触れているキツラのものがビクビクと震えているように感じる。 「……まさか、逐情したのか?」 「あなたは、少し意地悪になったのでは、ないですか……?」  はぁと色気のある息を吐いたキツラが恨めしそうに俺を見る。目元は赤みを帯び、黒目はたまらないと言わんばかりに潤んでいるから内心は嫌ではないのだろう。 「おまえにやられてばかりではいられないからな」 「そうして強がるカラギも、かわいいですよ」 「その言葉そっくり返してやろうか、キツラ?」  まだ尻を推し広げたままだった指先で縁をクリクリといじれば「あぁ!」と言って、またキツラが美しく鳴いた。 ・ ・ ・  思ったよりもつるりとした岩肌のおかげで、薄手の単だけでもなんとか背中は怪我をせずに済みそうだ。  そう思いながら岩にもたれ、両足でぐっと踏ん張りながら腰を少し前に突き出す。天に向かうようにそそり勃った俺の逸物の上にはキツラが乗り、いやらしい鳴き声を上げていた。  左足を脇にあった小さな岩に乗せ、片方だけ大きく股を開くような体勢になったキツラが腰をねじるように動かす。こんな交わり方は初めだ。いや、海で交わること自体が初めだった。これもキツラの言う“二人で初めて行うこと”に含まれるのかと考えると苦笑いが漏れてしまいそうになる。 (もうすっかり外での行為に慣れてしまったな)  あれだけ駄目だと怒っていた自分はどこへいってしまったのかと思わなくもないが、美しいキツラを目の前にして我慢できるほど俺は枯れていない。 (それに交われば交わるほど、鬼に近づいている気になれる)  そんなことを思いながら、逸物でぐぃっと奥を穿った。それだけでもキツラは鳴いて()がるが、さらにはだけた着物の合わせに口を寄せて乳首を噛むようにすれば、「ひぃ」と細く甘い声を出すのだから堪らない。 「あ、ぁ、もぅ、だめ……。おかしく、なりそぅ……」 「なればいい。それだけ気持ちがよいと、言ってくれるなら、くッ、本望だ」 「ぁあ! だめ、()すぎて、とけて、しまう」 「キツラの中は、もうとけてぐちょぐちょだぞ? く……っ、俺のを、食いちぎる、つもりか……ッ」 「あ、あぁ、()い、たまらなく、()くて、体が、勝手に……。ぁあっ! お、くに……! すごぃ、奥が、勝手に締まって、あぁ、カラギのが、あぁ、あぁ!」  外だということを忘れたかのように、キツラが甘い叫び声を上げた。それがますます俺を昂ぶらせ、一度吐き出したはずの逸物がぐぅんと膨らむのがわかった。 「ぁ、あ……!」 「ぐ……ぅッ!」  逸物の変化に驚いたのか、キツラの右足がずるりと滑り、つられるように小さな岩を踏んでいた左足まで落ちそうになった。  慌てて左足の太ももを掴んだものの俺も中途半端な体勢だったせいで、キツラの体がどしんと俺の腰にのし掛かる。すると逸物がより深く入り込んでしまい、その衝撃に中がきゅうきゅうと締まって一気に搾り取られてしまった。  先端をきゅぅと掴んでいる肉壁を押しのけるように、びゅうぅと子種が激しく吹き出している。それにも感じ入るのか、キツラは体をぶるぶると小刻みに震わせながら「ぁ、ぁ」と小さく鳴きっぱなしだった。 「やり過ぎた……、のだろうなぁ」  気がつけばキツラの意識はなく、それでも止まらない子種をすべて中に吐き出した。そうしてようやく落ち着いた逸物をゆっくり引き抜けば、ぼたぼたと後を追うように子種がこぼれ海の水を汚している。 「さて、どうしたものか」  俺よりも熱い体を抱きしめながら、どこか休めるところはないかと浜のほうを見る。すると、浜の少し奥に小屋があることに気づいた。 「あそこで休むか。あとは、どこかに川でもあればよいのだが……」  海の水を被ったままではいられないが、ひとまず腰から下を丁寧に海の水で洗い、脱ぎ散らかした着物や荷物を掴んで小屋へと移動することにした。  中はこざっぱりとしたもので、おそらく魚を獲るのに使うのだろう道具が並べられている。人気はないものの火を焚く場所もあり、体を休めるにはちょうどいい。 「手拭いも拝借するか」  干してあった手拭いでキツラの体を拭い、自分はさっと拭った程度の状態で下袴を穿いて小屋の外に出た。少し歩いた先に清水の流れている場所をを見つけ、そこで調達した水で二人の体を清める。それを何度かくり返した頃には陽が傾き始めていた。  さすがにここで寝るわけにはいかない。そう思いキツラに替えの単を着せようと上半身を動かしたとき、少し開いた金花の股の間に小さな水溜まりができているのが目に入った。それは俺が海の中で二度吐き出したもので、体を動かしたときにこぼれ出てしまったのだろう。  そういう様子は見慣れているはずなのに、どうしてか腹の奥が熱くなってきた。おとなしくなっていたはずの逸物が首をもたげていることに気づく。 「キツラは意識がないのだぞ?」  駄目だ、そんなことをしてはいけない、そう己を叱咤しながらも、俺の手は白い足を掴み、ゆるゆると押し広げ始めていた。そうして股を開かせると中が動くからか縁が開くからか、白濁がごぽりとこぼれ尻の間を流れていく。 「……っ、キツラ!」  まだ意識が戻っていないキツラの名を呼びながら、気がつけばまたもや逸物を尻に突き入れていた。ぐっぽぐっぽと音を立てるほど抜き差しをし、蹂躙するように逸物で中を擦り続ける。  意識のないはずのキツラのそこは、まるで起きているときのように俺の逸物に吸いついてきた。絞るように絡みつき、きゅうきゅうと食らいつきもする。わずかに開いた紅い唇から甘い息を吐き出していることに気づいた俺は、がむしゃらに吸いつきながら腰を穿った。 「キツラ、キツラ……!」  白い首に噛みつき、肩を噛み、それでも昂ぶった気持ちが抑えきれず、ぐぽぐぽと逸物を叩きつけるように押し入れる。  こんなひどい交わりは初めてだった。体に噛みつきながらなど、まるで鬼のようではないか。いけない、やめなければとわかっているのに体が止まってくれない。それどころか気持ちがますます昂ぶっていく。 「キツラ、これほどまでに好いているのだ」  泣くように思いの丈をキツラに告げた。すると、それを待っていたかのように白い瞼が開き黒く濡れた目が俺を見た。 「あぁ、カラギ、わたしも、好いて、……思うままに、犯して……」 「……ッ!」  わけのわからない熱がぶわりと広がり体を巡った。尻たぶを押し潰さんとする勢いのまま腰を打ちつけ、腹の奥へと子種をぶちまける。あまりの快感に俺の腰は震え続け、そのまま倒れ込むようにキツラに抱きついた。  そんな俺を愛しんでくれるかのように、キツラの手が頭を、肩を、背中を撫でる。 「………………ていますよ」 「!」  いま、キツラは何と……? 聞こえた言葉にどくりと胸が騒いだ。  ――鬼のようなあなたも、好いていますよ――

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