13 / 21

第13話

 兵士とお祖母さんの食堂は、新橋の商店街の、ちょうど真ん中にある。  前に兵士に助けられた時、俺はこの店の前で倒れていたらしい。  今日は、のれんは片付けられていて、準備中の札が引き戸に下がっているが、中にはほのかな灯りがともっていた。 「兵士、いるか?」  引き戸を開けると、右奥のテーブルに、兵士が突っ伏していた。 「裕介……」  兵士がむっくりと起き上がり、こちらを見た。おそらく、仕事から帰った時のまま、ずっと泣いていたんだろう。目が真っ赤だ。 「お前、ちゃんと食べてるのか? なんで、返信しないんだよ。何回も電話もしたのに」 「……」 「もっと早く来るべきだった。ごめん。」 「……うん」  俺は兵士の隣に座って、そっと頭を撫でてやった。痛み気味の金髪の感触が、フワフワとくすぐったい。 「……頼みがあるんだけどさ。」 「何だ? 言ってごらん」 「俺のフリをして、ばあちゃんのところに行ってくれない?」 「何で!? さすがに、そんなの、すぐバレるだろ?」 「……ばあちゃんを見てるの、すごく辛いんだ。」 「医者は何て?」 「分からない……とりあえず安静にしとけって……。」  兵士は憔悴しきっている様子だった。 頼れる親戚もいなく、一人で仕事と病院を行ったり来たりするのも辛いんだろう。 「……分かった。行くよ。 でも、わざわざお前のフリする必要あるのか?」 「俺が行かなかったら、ばあちゃん、ガッカリするんじゃないかと思って……」 「そうか……分かったよ。でも、これで最後だからな? お年寄りを騙すのは、心が痛いし……」 「うん……」  兵士は立ち上がると、俺に向かって礼をした。 「よろしくお願いします。」 「何だよ! お前らしくないぞ。」 「確かに、そーだよな……オレたち、チューした仲だし……。」  兵士が久し振りに、笑顔を見せてくれた。 同じ顔のはずなのに、人懐っこくて、子供みたいに可愛い笑顔だ。 「あれは!あの時だけ!もう無いから!」 「またまたぁ〜。オレはいつでもウェルカムだよ〜?」 「フザけてないで、俺がお前になる準備しに行くぞ!」 「はぁ〜い」

ともだちにシェアしよう!