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時間があるときはネットや街の不動産屋を見て空き部屋を探す。しかし、やはり新生活が始まったばかりで時期が悪く、空き部屋自体が少なく、その中で通勤に便利なところ、というと皆無だった。その度にため息が溢れる。  部屋を探しながら以前のところに戻るか、それとも戻らないか、ということも考える。以前のところは就職と同時に住み始めたところで、立地が良いだけでなく、大家さんもとてもいい人でそれが気に入っていた。  けれど、今回このようなことがあり、一時滞在的なウィークリーマンションではなく通常のアパートやマンションを探すとなると数ヶ月で出ていくのはマイナスでしかない。となると、以前のところには戻らず新しいところに行くということになる。  立地が良ければ、以前のところに戻ることを考えずに、ずっとそこに住むんでもいいかもしれない。そうなると部屋選びは慎重になる。適当に選んですぐに次のところに引っ越すのでは費用ばかりがかさんでしまうからだ。神宮寺に甘えているのだから少しでも早く、と思うけれど難しい。だから、顔を見るとつい謝ってしまう。  一緒に食事をするのはこれで何度目だろうか。週に二度ほどは一緒に食事をしている。なので以前に比べるとガチガチに緊張するのはなくなった。喋るのも慣れてきた。代わりに神宮寺が甘い表情をすることが増えたが。  今日も神宮寺と食事の日で、今日はお好み焼きだ。店選びを任せるとデートで行くような雰囲気の店ばかりなので、何回かに一回は店選びをさせて貰っている。そして今日は直生チョイスの日だ。神宮寺はあまりこういった店に来ないようで、お好み焼きは焼けるが、もんじゃ焼きは慣れていないようで直生が焼いている。 「部屋、まだ見つからなくて申し訳ないです。時期が悪くて」 「そんなことは気にしなくていい。部屋は余っているわけだし、焦って探してもいいことはないからな」 「そう言って貰えると助かります」 「毎回謝らなくていいぞ。俺は全く気にしていない。それより、ほら食え。焦げるぞ」  話して思うのは、神宮寺は顔もイケメンだが、中身もイケメンなのではないか? ということだ。細かいことはごちゃごちゃ言わずどっしりとしていて、とにかく相手のことを考える。笑うときも甘い笑顔で、女性が見たらイチコロではないか、と思う。これは絶対にモテるだろう、と思うと羨ましい。  そのイケメンがお好み焼きを焼くのはシュールな光景だ。初めて直生と来たときは、お好み焼きは焼いたことがない、と言っていたが元々器用で料理上手なのもあって、すぐにかき混ぜるのから焼きまで完璧になった。けれど、仕立ての良いスーツをビシッと着込んでお好み焼き屋に来るというのはなかなかな光景だ。イケメンなのも相まって、周りの目が必ず神宮寺で止まるのは言うまでもない。  対する直生は子供の頃からよく親にお好み焼き屋に連れて行かれていたため非常に慣れている。格好も普通の吊り下げスーツ。顔も平凡。なので、神宮寺といても注目を集めることなく周囲に同化している。ほんとうに対照的だよな、と思う。イケメン人生なんて歩んでみたい。そう思っても無理だが。 「そうだ。来週は三日ほど出張で大阪に行くことになった。なにか欲しいものはあるか?」 「大阪いいな。食い倒れですね。欲しいものは特にないですよ。こっちで売っているものと変わりないし。じゃあ来週は食事会はなしですね」  豚玉を小さく切って口に入れ、咀嚼する。   三日も大阪に行くのなら、こうやって会って食事をすることはないだろう、と思ったのだ。

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