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神宮寺さんに興味……。  箸を止めて考える。  考えたことがなかった。でも、知りたいと思ったのだから、それは興味だと思う。でも、それなら神宮寺は? 神宮寺は運命の番だから俺に興味があるのだろうか。もし、運命の番じゃなかったら? いや、その前に本当に運命の番だなんて本当に気がついているのだろうか? そう考えるとわからない。いや、人のことなのだから、わからなくて当然だが。仮に気づいていても、こんなどこにでもいる、なんなら人混みの中では霞んでしまうような冴えないやつと運命の番だなんて冗談じゃない、と思っていないだろうか。もし思っていたとしたらショックだが。 「興味ないわけじゃない、よ。でも、そこまでの興味があるのかはわからない。それよりも運命の番だというのを受け止めるのに必死。恋愛小説に出てきそうな運命の番だなんてさ。女性なら好きそうじゃん? でも、それがこんな俺に起こったなんて誰も信じないだろ」 「俺は信じてるけどな。だって、そうでなきゃ納得いかないわけだし、運命に平凡もなにもないんだよ。そんなんじゃなくてさ、肩の力を抜いて、それこそ運命に身を委ねてみたらどうだ? そうしたら、それこそ運命の番なのかわかるかもしれないし、それに今お前に起きていることは、そんなに悪いことじゃないと思うぞ。火事以外はさ」  そう言うとご機嫌そうに唐揚げを食べきり、ジョッキを傾ける。唐揚げはあまり食べられずに、全て食べられてしまった。 「そう、かな?」 「それに、どうなるかなんてさ、いくら考えたって誰にもわからないんだよ。お前にも、その神宮寺さんにもわからないんだよ」  いくら考えても誰にもわからない。確かにそうかもしれない。どんなに考えたところで未来なんて誰にもわからないのだ。 「でも、さ。こんな冴えないやつとなんて冗談じゃない、と思ってるかもしれないだろ」 「お前ね。食事に誘われてるんだぞ? 否定はしてないだろうが」 「そう、なのかな」  でも、言われてみればそうだ。なぜ自分を食事に誘うのか、と思ったばかりだと思い出した。 「あまり考えこまずに、素直に受け入れてみたらどうだ? お前は自己評価が低いどころかマイナスだから絶対に悪い方にしか考えないだろ。お前にだって運命はあるし、幸せになっていいんだよ」  和明の言葉に何も言葉が出ない。直生はいつもグダグダと悪い方にばかり考える。それは平凡すぎる自分に自信が持てないからだ。みんな自分のことを大学のときに自分を笑っていた子たちと同じように思っているんじゃないか、と考えてしまうのだ。  今までの人生、モブでやってきたのだ。主役だなんて慣れてない。だから、そんな小説や映画の出来事のようなこととは無縁に生きてきた。なのに、そんなことが自分に起こって、しかもお相手は超イケメンだなんてびっくりしすぎでにわかには信じられなくても仕方がないだろう、と思う。  神宮寺が何を思って食事に誘ったのかわからない。でも、誘ってくるということは否定はされていない、と考えていいのだろうか。それが例え言葉通り一人で食べるのが味気ないと思うからだとしても。だから、もし今後誘われても一緒に食べに行っていいのだろうか。良く知っている相手ではないけれど、顔見知りではあるし、何と言っても部屋を貸してくれている相手なのだ。警戒する必要はないだろう。 「せいぜい頑張れ。もし本当に運命なのなら、どう逆らったってなるようにしかならないと思うぞ」 「うん……」  和明の言葉は、ごちゃごちゃと考えすぎるきらいのある直生の背中をそっと後押しした形になった。  なんでも考えて、どうして、なんで……。いつもそうやって考える。どうやったて人の考えていることなんてわからないのに、それすら考えようとする。明確になっていないと怖いのだ。何か起こったときに怖いのだ。  しかし、何かが起こることはそれほどない。つまり、考えすぎて自分が疲れるだけなのだ。臆病ゆえの悪い癖だった。それに対し和明は、考えすぎるなと友人なりのアドバイスをくれる。  神宮寺も言っている通り一人での食事は味気ないから、ちょっと興味のある自分を誘ってくれているだけかもしれない。それも飽きれば他の誰かを誘うだろう。そう思うと、少し肩が軽くなった気がした。

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