30 / 46

4-5

 神宮寺の声を聞いた直後には、道路に転がっていることに気づく。それでも痛みは一切ない。それもそのはずで、神宮寺が直生を抱えて庇っていたからだ。  そのことに気づき、すぐそばにある神宮寺の顔を見ると、頭からかなりの血を流れていることに気がつく。おびただしい血の量に恐怖が募る。 「神宮寺さん! 神宮寺さん!」  直生は神宮寺の腕の中から抜け、神宮寺の体を揺さぶる。けれど、神宮寺は目を開けないし、返事もしない。あまりのことにどうしていいのかわからなくなって、身動きが取れなくなってしまう。  どのくらいそうしていたのだろう。気がついたときには救急車が来ていて、神宮寺と直生を乗せて病院へと向かっていた。  救急車の中では何か訊かれたような気もするけれど、気が動転していて何を訊かれたのか、どう答えたのかよく覚えていない。二人は救急に運ばれ、直生は神宮寺の鞄を抱えて、待合に座って待っていた。  すると、看護師が来て、直生も中へと通される。なんだろう? と思うと、顔と手を処置された。自分では気づかなかったけれど、数カ所怪我があったようだ。  処置が終わると、また待合で神宮寺を待つ。じっとしていると、端正な顔を血で染めた神宮寺の顔が姿がちらついて手が震える。どうなんだろう。大丈夫なんだろうか。  少し経つと、神宮寺を乗せたベッドが出てくる。反射的に立ち上がり、近づく。 「検査に行きますのでこちらでお待ち下さい」  看護師にそう言われ、またソファに座る。待合で一人で待っている時間はノロノロと過ぎていくだけだ。時計から目を離して、しばらくしてからまた時計に目をやっても、針は大して進んでいない。  震えの止まらない手をギュッと握って、検査から戻る神宮寺を待つ。そうしてどのくらい待っただろうか。神宮寺を乗せたベッドが戻ってきた。大丈夫だったんだろうか? しばらくそうしていると、ふいに声をかけられる。看護師だ。 「神宮寺さんのお知り合いの方ですよね? 検査が終わりましたのでこちらへ」  看護師の後について休館室の中の片隅に行くと、白衣を着た40代くらいの男性医師がいた。 「神宮寺さんと一緒に運ばれてきた方ですよね?」 「あ、はい」 「本来、ご家族の方にお話するのですが、今は連絡先がわからないということなので、白瀬さんにお話したいと思います。神宮寺さんですが、頭を強く打ったために脳震盪を起こしています。そのうち意識は戻るので、その辺は心配はいりません。出血が多かったので驚かれたと思いますが、命に別状はないので安心してください。ただし、しばらくは入院していただくことになります」  命に別状はない、という言葉を聞いてホッと安心する。医師の言う通り出血が多くて、死んでしまうのではないかと、ずっと不安だったのだ。でも、それがない、とわかっただけで安心できた。とにかく神宮寺は無事なのだ。 「では、病室へご案内します」  医師の説明が終わり、先程の看護師が神宮寺が寝るベッドを引いてエレベーターに乗り、上階の病室へと連れて行かれる。大部屋に通されたが、稼働しているベッドはふたつだけで、後は空だった。  神宮寺と直生を病室へ案内した看護師は戻っていく。とりあえず神宮寺の荷物をロッカーに入れ、スマホだけをベッド脇のテレビの横に置こうとしたところでスマホが鳴った。意識のない神宮寺は当然出ることはできない。しかし、このことを誰かに知らせないといけない。けれど、直生は神宮寺の緊急連絡先を知らない。もしかしたら、こんな時間に電話をしてくるこの電話の主は緊急連絡先、もしくはそれに準ずる人かもしれない。そう思い、人のスマホを覗くようで気が引けたけれどディスプレイを見る。そこに表示されている名前は、浅田、となっていた。どこかで聞いたことのある名前だと思う。だが、ピンとこない。それよりも早く出ないと電話が切れてしまう。早く出なくては。とりあえず病室で出るのはまずいだろうと思い、足早に病室を出、携帯可能な面会スペースへ急ぎ、電話に出る。

ともだちにシェアしよう!