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「はい、神宮寺の携帯です」
「神宮寺さん、浅田です」
低く落ち着いた声は聞き覚えがある。誰だろうか、と思考を巡らせるとそれが誰かわかった。いつも神宮寺についている男だ。もちろん直生のことも知っている。
「あ、あの! すいません、白瀬です」
「白瀬さん?」
「はい。いつもお世話になっている……」
「ええ、わかりますよ。しかし、なぜ白瀬さんがこの電話に?」
「あの、実は……」
直生は事故のことを浅田に話す。話を聞くと浅田は病院名と病室を聞き、すぐに電話を切った。さすがに浅田が緊急連絡先ということはないだろう。しかし、直生よりも神宮寺のことを知っている浅田ならば、どこへ連絡をしたらいいのか知っているかもしれない。少なくとも直生よりは知っているはずだ。
運ばれてくるときはわからなかったのだが、ネオン街からさほど離れていないので、ほどなく来るだろうと思い直生はスマホを持って病室に戻った。
浅田は直生と電話を切って数十分後に、もうひとりの男と連れ立って病院へ来た。もう一人の男もいつも神宮寺についている男で直生も面識がある男だった。
そして二人が来てまもなく、看護師が来て神宮寺を個室へと移す。何故だろうと思っていると「組の関係者の自分たちが大部屋へいくと同室者に迷惑をかける」というものだった。本来は、組御用達の病院へ転院させることも考えたが、神宮寺の意識がまだ戻っていないことを考えると、検査をしたこの病院の方がいいだろう、ということで転院は神宮寺の意識回復待ちということになった。
浅田は手際が良く、直生との電話を切ると、必要なもの一式を全て持ってきて、しかも病院の手続きまでしたらしい。そして、直生は気になっていることを訊いた。
「あの……緊急連絡先がわからなくて連絡してないんですが大丈夫ですか?」
「それなら問題ありません。こちらから連絡しておきました」
短時間の間に入院に必要なものを揃えるだけえなく、緊急連絡先にまで連絡済みというのはあっぱれとしか言いようがない。冷静に見えるだけでなく、本当に冷静なのだな、とぼんやり思う。
「それより白瀬さんは大丈夫なのですか? 怪我をされているようですが」
「あ、俺は神宮寺さんのおかげで大丈夫です。それより俺なんかのせいで神宮寺さんをこんな目に合わせてしまって申し訳ありません」
「大事がないようでなによりです。神宮寺さんが白瀬さんを守りたかったのですから、俺なんかなんて言わない方がいいです。神宮寺さんの気持ちですから」
神宮寺が自分のことを守りたかった、と言われて涙が浮かぶ。自分の身を呈して守ってくれたことが嬉しいけれど、同時に馬鹿だな、とも思う。こんなに大変なことになって。ありがとう。ごめん。そう言いたいのに伝えたい相手である神宮寺はまだ意識がない状態で。早く目を覚ましてくれ、と目を瞑ったままの神宮寺に心の中で呼びかける。
「すいません。面会時間過ぎていますので」
通りがかった看護師に言われる。
「神宮寺さんの関係者の方ですよね。病院は完全看護ですから、何かあったらご連絡しますので今日はお帰りください」
そう言われて、そう言えば夕食後に事故にあったんだ、と思い出す。浅田たちが普通に病院に来たのですっかり忘れてた。
「白瀬さん。今日は帰りましょう。送ります」
本当はずっとついていたい。けれど面会時間外だと言われてしまったら帰るしかない。浅田に促され、ノロノロと神宮寺のベッドから離れる。
「一人で帰れます」
「いえ、今日は送らせて頂きます。白瀬さんも怪我をされているし、精神的ショックもあると思うので」
そう言われたらお願いするしかない。
「じゃあ、申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
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