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 病院の駐車場に停めてある車に乗り込み、病院を後にする。  看護師にはああ言われたけれど、本当はずっとついていたい。けれど完全看護だし、それに考えてみれば明日はまだ仕事がある。こんな状態で仕事どころではないが休むわけにはいかない。それでも明日一日頑張れば明後日は土曜日で休みだ。神宮寺がエンチラーダを作ってくれると言った週末。そんなことを思うと涙が止まらなくなる。  別に死んだわけではないし、医者は、意識は戻ると言っていた。それでも外傷もある。あの綺麗な顔に傷がついてしまった。  なぜ神宮寺は自分なんかを庇ったんだろう、とそればかり考えてしまう。でも、大丈夫だ。意識は戻ると医者は言っているのだ。きっと明日にでも意識は戻るだろう。そうしたら謝ればいい。そう思いながら直生は帰路についた。  翌日、直生は寝不足の赤い目で出社した。寝ようとしても、血を流して倒れている神宮寺の姿が浮かんでしまい、よく眠れなかったのだ。それでも休むわけにはいかず出社したが、仕事に集中することはできなかった。そしてそんな直生を見て声をかけてきたのは和明だ。 「どうした。酷い顔だけど」  お昼休憩。二人で静かな店へ移動し、和明が訊いてくる。 「昨日事故にあって、神宮寺さんが意識なくて入院してる」 「え? じゃあ、その顔の傷って事故の? てか意識ないって大丈夫なのか?」 「うん、傷は事故のときの。でも神宮寺さんが庇ってくれたからこれで済んだけど。お医者さんは命に別状はないし、意識も戻るって言ってるんだけど」 「早く意識戻ればいいな。今日も病院行くんだろ?」 「うん」 「じゃあ早く仕事終わらせて行けよ。何かあったら俺がやるから」 「ありがとう」  友人である直生のことはもちろんのこと、会ったこともない神宮寺のことを心配してくれる和明は優しい男だな、と思う。  集中できない仕事は時間がノロノロとしか進まなくて長く感じたけれど、定時になるとすぐに帰る支度をする。幸い何のトラブルもなかったので和明に迷惑をかけることなく帰ることができる。 「気をつけて病院行けよ。お大事に」 「ありがとう」  浅田や組の人間がいるかもしれない、と思いドキドキしながら病室のドアを開けるが誰もいなかった。そして、意識を取り戻してはいないだろうか、と神宮寺に目をやるが神宮寺は目を閉じたままだった。意識を取り戻して寝ているだけなのでは、と思い何度か「神宮寺さん」と呼ぶが神宮寺は目を覚ますことはなかった。点滴を変えに来た看護師に訊くが、まだ意識は取り戻していないという。  何故? 医者は意識は戻ると言ったではないか。それなのに何故まだ意識を取り戻していない? まだ早いのだろうか? 直生も、その周りの人間もこんなことにあったことがないので、わからない。まだ丸一日経った訳でもないのに、もう長いこと眠っているように感じる。  早く。  早く。  早く目を覚ましてくれ。  けれど願いも虚しく、その日は意識を取り戻すことはなく、トボトボと家に帰った。神宮寺に借りているあの家へ。  土曜日は、面会時間になってすぐに病院へと行った。すると、病室に神宮寺によく似た髪の長い綺麗な女性がいた。直生がドアを開けると、軽く会釈をしてくる。もしかして神宮寺の家族かもしれない、と声をかける。

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