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「あの……神宮寺さんのご家族の方ですか?」
「はい。あの、あなたは? 組の方、ではないようですけど……」
「あ、あの。ゆ、友人の白瀬と言います。あの、神宮寺さんに庇って貰って……」
「あ、事故のときの。はじめまして。妹の美月と言います。お怪我をしたって聞きましたが大丈夫ですか?」
「自分は大丈夫です。神宮寺さんのおかげで擦り傷で済みましたから。それよりも俺のせいで神宮寺さんがこんな目にあって申し訳ありません」
がばりと頭を下げる。すると優しい声がかかる。
「白瀬さん。頭をあげてください。兄が庇いたいと思って庇ったんです。白瀬さんのせいじゃありません。兄自身の問題です。だから謝らなくてもいいんですよ」
「いえ、そんな」
「さっきお医者様にお話を聞いたら、意識も戻るし、後は肩と腕の骨折だけで車の接触事故にしては軽症だっていうから気にしないでください。それよりも白瀬さんは擦り傷で済んで良かったですね」
思ってもみない優しい言葉をかけられ、直生は涙が止まらなかった。
「やだ。泣かないでください。私が泣かせちゃったみたい。兄に見られたら怒られちゃう」
切れ長の目を緩め、小さく微笑みながら美月が言う。
「でも……」
「あまり自分のことを責めないでください。誰も白瀬さんを責めたりはしませんよ。兄もです。それに、兄なんていつ何があったっておかしくないんですよ。交通事故なんて可愛いものです」
「……」
それはやくざだということでだろう。美月は表情を変えずに言う。
「うち、もう両親いないんです。だから私は兄に大学に行かせて貰いました。私のためにやくざになったんじゃないか、って私は思ってます。だからって言うわけじゃないですけど、兄に何かあっても私は泣けません。私のせいだから。それに、いつ何があってもおかしくないと覚悟はできてます。それが、骨折で済んだ事故ですよ。心配しないわけじゃないけど、さほど心配もしてません」
「美月さん……」
「ね、だからそんなに自分を責めないでください。抗争に巻き込まれたんじゃないですもの。たかが事故です」
そう言える美月を直生は強いな、と思った。そんな美月の前でそれ以上泣けなくて、直生はギュッと唇を噛んで耐えた。
「早く目が覚めるといいんですけど」
「はい。はやく謝りたいです」
「それよりも、いつまで寝てるんだ、って怒ってやってください。日頃の疲れで寝てるだけなんじゃないですか」
美月はいたずらっぽく笑う。
それからしばらく、昔の神宮寺の話などを聞き、一時間ほど経つと用事があるから、と美月は帰っていった。
そして一人残った直生は神宮寺の手を握った。その手は温かかった。その温もりに、神宮寺が生きていることを確認する。神宮寺は確かに生きている。それなのに目を覚まさない。早く目を覚まして。そして謝らせて。美月はああ言っていたけれど、直生は謝りたかった。俺なんかのためにごめん、と。事故にあった木曜日から直生は心の中で神宮寺に謝罪し続けている。
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