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「神宮寺さん、俺なんかのためにこんな目に合わせてしまってごめんなさい」
直生が謝ると神宮寺は少し弱々しいが優しい笑みを浮かべて直生の頬に触れる。
「顔に擦り傷できたな」
「俺は大丈夫です。擦り傷なんてすぐに治るし」
「お前が無事ならいい」
自分は大変な目にあったというのに、自分のことを放って直生の心配をする神宮寺に涙が溢れた。今日は泣いてばかりだ。
「バカ! 意識戻らないから心配したんですよ!」
「悪かった」
「俺……俺……」
神宮寺に気持ちを打ち明けたいと思うのに、涙が止まらなくて言葉にならない。
「あまり泣くな。俺は大丈夫だ」
「意識がなかなか戻らないから不安で、このまま目を覚まさないんじゃないかって……。そう思ったら怖かった。神宮寺さんを失うんじゃないか、って」
「大丈夫だ。お前の前から勝手にいなくなったりしない」
こんなときにまで神宮寺は優しくて、やはり好きだな、と思う。
「俺……俺……神宮寺さんが好きです」
覚悟がないから、と伝えられなかった言葉。でも、意識が戻ったら伝えたいと思っていた言葉。気持ちを言葉にするのは怖かった。もし神宮寺の好意がそういう意味じゃなかったら? それでも、何も伝えずに神宮寺を失う方が怖かったから。だから勇気を出して言葉にした。
「本気か?」
「はい」
「俺の気持ちは……知ってるな?」
「はい。でも、言葉で聞いたことはないです」
「俺の立場とお前のことを考えるとな。簡単には言えない。言ってもいいのか?」
「聞きたいです」
「後戻りできなくなるぞ」
「後戻りなんてできなくていい。大切なものを失う方が怖いです」
「そうか……。お前のことが好きだ。番になりたいと思ってる」
「俺なんかでいいんですか? 可愛くもなんともない平凡なやつでヒートだって不定期の出来損ないなのに。それでもいいのなら神宮寺さんと番になりたい」
好きだというよりも、番になりたいと言う方が勇気がいった。だから少し卑怯な言い方をしてしまった。
「すごい言いようだな。それに、なんか、じゃない。お前がいいんだ。それにお前は可愛いけどな」
「可愛くないですよ。言われたこともない」
「見る目がないんだよ。でも俺はお前がどうであれ、お前と番になりたい」
「物好きですね。でも、俺も。俺も神宮寺さんじゃないとダメです」
「嬉しいな。これ、夢じゃないのかな。お前が好きだと言ってくれて、番になりたいと言ってくれるなんて。夢を見てるみたいだ」
「夢じゃないですよ。意識戻ったじゃないですか」
「そうだな」
気持ちを伝えるのはもっと大変だと思っていた。けれど、ほんの少しの勇気だった。ほんの少しの勇気を出したことで神宮寺は幸せそうな笑顔を浮かべてくれるのだ。そして、そんな笑顔を見て、その笑顔を守りたいと思う。
「だけど、本当に番契約をしていいのか? ずっと一緒にいるということだぞ。俺のこと知ってるだろう」
「知ってます。でも、他のαじゃ嫌なんです。やくざでもなんでも神宮寺さんがいい。それに運命の番ですよ?」
「知ってたのか」
「知ってたというか知らされました」
「誰に?」
「バース科の担当医に」
少し顔をしかめて言うと神宮寺は声を出して笑った。神宮寺のそんな笑い方を見るのは初めてで、嬉しくて、同時に少しくすぐったい。
「笑いますけどね、本当に葛藤したんですよ?」
「それでも、こんなやくざものの番になってくれるのか。最高だな」
神宮寺の笑いは止まらない。自分のこんな言葉で喜んでくれるのか、と直生は嬉しくなった。でも、そのすぐ後に神宮寺は真面目な顔をして言う。
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