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 番になった後の神宮寺はさらに直生を構い倒した。  週二回ほどだった食事会は、場所を神宮寺の家に変え、毎日となった。  初めは必死に辞退した。仕事で遅くなることもあるし、神宮寺だって仕事が忙しいだろう。なのに毎日料理を作るのは大変だろう、と言ったのだ。しかし、神宮寺は聞かなかった。  会食などの予定が入っている日は作れない。しかし、それ以外の日は食べなければいけないのだから作るのは当たり前だし、それなら一緒に食べようというのだ。  しかも、直生が遅い日は食べずに直生の帰りを待っているのだ。そんなのどこの新婚家庭か、といった感じだ。  百歩譲って毎日作ってくれるのはいい。直生だって毎日食事をしないわけにはいかないのだ。でも、遅くなる日は待ってなくていい。そう言ったのだ。しかし返ってきた返事は、いつか聞いた、一人で食べても味気ない、だった。そして直生は降参した。ここは甘えて毎日作って貰おう、そして毎日一緒に食べようと。直生が毎日作って貰うのは悪いから、たまには自分が作ると言ったが、それは危ないからと却下された。  神宮寺曰く、火や刃物が危ないというのである。しかし料理なんて一応直生だってやってきていた。火も包丁も気をつければいいことだ。だけどそんな言葉も却下された。神宮寺はとにかく自分を甘やかしたいのだと直生は思った。そうなったら飽きるまでやらせるしかないと諦めた。 「ん〜今日も美味しい」  今日のメニューは豚の生姜焼きだった。生姜はチューブなど使っておらず、きちんとすりおろしている。繁忙期の金曜日で疲れているだろうから、と生姜焼きになったらしい。そんな小さな気遣いまで見せてくれて、直生は嫁を貰った気分だな、と思う。いや、夜は直生の方が嫁側なのだけど。  生姜焼きを堪能した後はデザートもある。さすがにデザートを毎日作るには時間不足のようで、それは市販品になった。簡単なものや時間があるときなどだけ作ってくれるという。  和食の今日のデザートはあんみつだった。釜飯とあんみつなどの甘味の有名なチェーン店のものだ。仕事で店の近くに行ったと言う。毎日毎日日替わりでのデザートは毎日の楽しみになった。  デザートは神宮寺が直接買いに行くこともあるが、浅田などの部下に買いに行かせることもあるという。神宮寺に買いに行かせるのも申し訳ないが、それよりも部下にこんな買い物まで頼むのはいかがなものだろうか、と一度言ったことがある。  返ってきた答えは、普通の会社員と違うから仕事内容なんてあってないようなものだと言うことだった。ちなみに、以前は普段の食材も忙しいときは買いに行かせていたという。今はどんなものでも直接自分の目で見て買いたいから、と普通の食材については神宮寺自らが買いに行くという。  一目で吊るしものでないスーツだとわかるものを着た神宮寺がスーパーに行くなどいいのだろうか? いっそ自分が行こうか、とこちらも申し入れたことがある。しかし、スーパーでいいものがあったらそれで献立を決めるから自分で行く、と言ってきかない。それに、重いものは持たせたくないらしい。  火や刃物は危ない、重いものは持たせたくない。自分はいつ深窓の令嬢になったのだろう、と直生は思うが、こちらも言うだけ無駄だった。  こんな調子で神宮寺はとにかく直生を構い倒し、甘えさせる。このままでは自分で何もできなくなりそうだけれど、神宮寺が聞く耳を持たないので意味がない。俺、女の子じゃないんだけどな。そう思うけれど関係ないらしいので諦めている。

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