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「明日は美月が来る」そう言われたときは、緊張した。というより、妹が来ると言うなら直生は来ない方がいい。そう伝えたのだが、神宮寺の口から出てきた答えは、「直生に会いに来る」というものだった。
「なんで俺に会いに来るんですか」
「お前と番になったからだ」
考えてみたら、神宮寺と番になって一ヶ月になるというのに、唯一の家族である妹の美月に挨拶していなかったな、と思う。
「そのうちお前の家にも挨拶に行くが、まずは美月に会ってくれ。病院で会ってるというから気も楽だろう」
何が気が楽なものか。大体あのときは神宮寺を事故に巻き込んでしまった責任だけだった。まして意識を取り戻さないため、そのことしか考えられなかった。
けれど今回は違う。神宮寺と人生を共にする番として会うのだ。緊張しないはずがない。
「美月さん、どんなお菓子が好きですか? 買ってきます」
「そんなことは気を使うな。あいつはいつも俺の作ったものしか食わない」
神宮寺の言葉に、言葉を失った。お兄さんの作ったお菓子しか食べないってすごい贅沢ではないだろうか。と、そこまで考えて、お菓子ではないけれど神宮寺の作ったものだけを食べているのは自分だと思い恥ずかしくなる。が、今はそれどころじゃない。
オロオロとする直生を見て神宮寺は小さく笑った。
「笑いごとじゃないですってば! 家族に会うんですよ? 神宮寺さんにとって唯一の身内じゃないですか。番が俺だって知って反対されるかもしれないし」
「今さら反対されても番を解消する気はないぞ。大体、番を解消して大変なのはΩの方じゃないか」
「いや、確かにもう番契約しちゃったけど、そうじゃなくて」
「とにかく落ち着け。電話で伝えたときは安心した、と言っていたぞ。やっと俺が身を固めたってな」
「いや、だからって相手が俺でいいとは限りませんよ」
「だから、美月がなんて言おうと番契約は解消しない。だから安心しろ」
そう言われて、そうですか、と安心できる人間はどれだけいるのだろうか。少なくとも直生には無理だ。せめて粗相をしないように気をつけなくては。
ガチガチに緊張して迎えた翌日。あまりの緊張に朝食も喉を通らず、それを聞いた神宮寺が心配する。
「少し深呼吸しろ。誰がなんと言おうと俺にはお前だけだ。少しは自信を持て」
神宮寺に言われて大きく深呼吸をしたときにインターホンが鳴った。
「お兄ちゃん、久しぶり。直生さんもお久しぶりです」
「入れ」
神宮寺が美月といるのは初めて見るが、いつも通りの神宮寺で、どこかホッとする自分がいた。これなら、自分もいつも通りにした方がボロも出ないしいいかもしれない。
「ほら、直生も座れ」
「あ、はい」
言われて直生は神宮寺の隣に座る。美月は神宮寺の正面に座っている。
「あぁ、コーヒーを淹れてくるから待ってろ」
「あ、自分がやります!」
「直生はいいから座ってろ」
コーヒーを口実に逃げたかっただけなのだけど、そんなことはお見通しなのかもしれない。
どうしようか、と内心狼狽えていると、口を開いたのは美月だった。
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