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「直生さん。兄と番になってくれてありがとうございます」 「え? あ、いや。俺なんかで申し訳ありません」 「いいえ。直生さんで良かったです。兄のお金目当てだったりする人じゃないから」 「お金なんて、そんな!」 「ふふ。でしょう? 直生さんならそう言うと思いました。以前お会いしたときに優しそうな人だな、と思っていて、そんな直生さんが兄の番になってくれたって嬉しくて。やくざなの知ってるのに」  正直言うと、自分の気持ちに気づいたとき、神宮寺がやくざだと言うことで躊躇はした。それでも事故にあい、神宮寺を失うかもしれないと思ったときにはそんなことは気にならなくなっていた。失う方が怖いと思ったからだ。 「やくざとか関係ないです」 「そう言ってくれてありがとうございます。ちょっと頑固なところあるけど、妹が言うのも変ですけど、優しいのが取り柄なので、これから兄のことよろしくお願いします。」 「こちらこそ、よろしくお願いします」 「おい。なんだか嫁に出された気分だな」  そこに神宮寺が三人分のコーヒーとパウンドケーキを持って来た。今朝忙しいと言っていたのはこれを焼くためだったのか、と気づく。 「そういうわけじゃないけど、逃げられたら困るでしょう、お兄ちゃん」 「誰がなんと言おうと逃さないよ」 「そうしてね。変な人が番になるとか嫌だから」 「安心しろ。人を見る目はあるつもりだ」 「確かにそうね」  そう言って笑う兄妹を見て、あぁ逃げられないんだな、と漠然と思った。最も逃げる気もないけれど。 「子供はどうするの?」 「まだ直生とは話してないが、俺としては早めに欲しいと思ってる」  子供?! 思ってもみなかった言葉に直生はむせた。 「直生、大丈夫か?」 「だ、大丈夫です」 「直生さん、お仕事忙しいんですか?」 「え? あ、あの」 「私、早く二人の子供見たいです。直生さんの子供だったら素直で可愛いだろうな」  まぁ、間違えても顔が可愛いとは言えないだろう。神宮寺に似ない限りは。なにせ平凡顔の俺だ。いくら子供だって可愛くはならない、そう思うと子供は神宮寺に似てくれた方がいいな、と思って恥ずかしくなる。 「なに赤くなってるんだ」 「え? あ、いや」 「ふふ。直生さん可愛い」  美月がそう言って小さく笑う。それを見て直生は余計に恥ずかしくなった。 「直生さん。お仕事も大変だと思いますけど、子供、楽しみにしてますね。なんてプレッシャーかけちゃダメか」  そう言って舌をちょっと出しておどけて笑う美月はとても楽しそうに見えた。だから聞いてみた。 「あの、ほんとに俺で良かったんですか? 俺なんかで」 「先程も言いましたけど、直生さんで良かったと思ってたし、今日お会いして、もっとそう思いました」  そう言われてしまえば、なにも言えない。 「よろしく、お願いします」  と直生は頭をさげた。それを見て、美月も頭をさげた。 「こちらこそ、兄をよろしくお願いします」  と、先程とおなじことで頭をさげている二人を見て神宮寺が言う。 「直生。少しは自信持てたか」 「自信は今もないけど、俺でいいのなら、ずっと神宮寺さんの隣にいます」  言うのは恥ずかしい言葉だったけれど、唯一の身内として神宮寺を心配している美月を安心させたくてそう言った。 「後は遅くならないうちに子供を作ろう」 「はい……」  顔を赤らめ俯く直生を神宮寺兄妹は優しい表情で見ていた。

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