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第1話
春の終わりが近づき少しずつ夏の暑さが顔をのぞかせ始める季節
入学してしばらく経ち
それぞれ友人グループができたり
部活に入ったりして
少しずつ環境に慣れ始める頃
ぼくはというとしずかでゆっくりできそうという理由で立候補した保健委員の当番で
たまたま一人で保健室の留守番をしていた
「まぁ、どうせ誰も来ないだろうし、本でも読んでよ。」
家から持ってきていた雑誌を広げ
地元の名物食べ歩き特集!と書いてあるページを眺める
場所もそんなに遠くはない
電車で何駅か先の場所
あ、これ駅前だ。今日オープンなのか。
ペラペラとページを巡りながら
ここ行きたいなと印をつけていく
ゆったりとした趣味の時間
だった
突然外からドサッと何かが落ちる音がした
「なんだろ?」
結構重い物が落ちたみたいだったけど…
窓から見えるのはそれなりに高さのある木と青い空
そして、その木の下で倒れている人
「…ひと?!?!」
どうも、木から落ちたらしいその人の腕の中で何かうごめいた
にゃー
「ねこだ」
ひょこっと顔を出して、自分を抱いている人物を見つめている
「大丈夫か?」
にゃ
「ならよかったか」
ふっと嬉しそうに優しく微笑んだ彼
(綺麗…)
何故か目が釘付けにされた
一瞬、息をするのを忘れるほどに
って、そんなことより
「あの!大丈夫ですか?!怪我してませんか?!」
窓から体を乗り出して声をかける
「…大丈夫だ、気にすんな」
そっけない返事、さっきまでの笑みはスッと消えジトっと睨まれた
見てたのかと言わんばかりの態度
そのまま猫を地面に下ろして去っていこうとする彼
だったが、足を挫いたのか歩き方がぎこちない
「あ!ちょっと待ってください!」
保健室から外へ続く扉を通り追いかける
一瞬逃げようと身構えられたがやはり足の痛みがあるのだろう、顔を顰めてうずくまってしまった
良く見ると顔や手にも切り傷ができている
「っ…」
「やっぱり、足捻ってますよね。怪我もしてるみたいですし保健室行きましょう。冷やすものもありますから」
「…ちっ」
え、舌打ちされた、すごい顔も逸らされてるし
いや、でも、流石にこのままにしておくわけには
「とにかく、一度保健室に連れて行きますね。肩掴まってください。」
「……別にいい」
「良くないです!転んで怪我でもしたら大変ですから。ほら、早く」
腕を掴んで自分の肩に回す
で、ふと気がついた
「…体格差」
焦ってそこまで考えていなかった
明らかに自分より大きい男子
肩に捕まってなどと言ったが
これでは引き摺って保健室に行くことになってしまう
「あ、えっと、誰か呼ぶ…って今他に保健室誰もいないし、ここまで湿布と消毒液持って…ってその間に見失っても…」
どうしたものかとワタワタしていたら
「ふはっ」
笑い声の方を見ると彼がそれはもうおかしそうにしていた
(また笑った
…やっぱり綺麗だな)
ドキッと心臓が跳ねた気がした
「ふっ…くくっ……はぁ
あー…すまん。自分で歩ける」
「あ!はい。」
そう言われて慌てて腕を離す
恥ずかしいやらびっくりしたやらでボケっとしていたら不思議そうにされた
「保健室、行けばいんだろ」
「え、あ、はい。お願いします?」
「わーったよ」
彼はなんで疑問系なんだよ、と笑いながら少し足を引き摺って保健室の扉の方へ向かっていく
(あ、言うこと聞いてくれるんだ)
保健室に戻ってベッドの上に座ってもらい
とりあえず捻っている足は冷却スプレーと備蓄されている湿布を貼って応急処置を行なった
「とりあえずこれで足は終わりです。あとは怪我したところの消毒と…」
「いや、もうだいじょ「たっだいま〜。いやぁ佐倉くんごめんね。留守番ありがと〜」
ガラッと軽快な音を立て入ってきたのはこの部屋の主である
誰にでもフランクに接するので男女問わず人気のある珍しい先生だ
ちょっとチャラいなとは思うけど
「ありま、怪我人?」
「あ、宇奈月先生。そうなんです。捻挫したみたいなので湿布は貼ったんですけど、まだあちこち切り傷とかがあって」
「なるほどなるほど〜。いやぁ佐倉くんさすがだねぇ。」
えらいえらいとワシワシ頭を撫でられる
「わっ、ちょ、先生」
「………」
パッと手が頭から離れた
「んじゃま、消毒していこうかね〜」
佐倉くん消毒液取ってきて〜と言われたので棚の方へ向かう
「えっと、確かこの辺りに…あった」
棚を開けて消毒液の入った容器を取り出し
二人のところに戻ると何か話しているようだった
「先生、消毒液持ってきました」
「ありがと〜」
容器を渡すとテキパキと処置していく先生
チャラいけどちゃんとはしてるんだよな
「はい!これで終わり!」
「ん」
「そこはありがとうございます、でしょー。一応僕先生なんだけど〜」
「うっせ」
処置が済んで傷があったところはガーゼで隠れた
幸い大きな怪我はなかったようだ
とりあえず一安心
ほっと一息ついていると木から落ちた彼が話しかけてきた
「あの、さ。その…ありがとな」
少し照れくさそうにしながら
「いやいや、そんなぼくは特に何も」
先生の手伝いをしていただけだし大したことはしていない
「んなことねぇよ、湿布さんきゅな」
ふわりとさっき助けた猫に向けた時と同じ笑顔を向けられた
「え。あ。いや。その。どう、いたしまして?」
ぼっと顔に熱が集まった気がした
お互い目を逸らして
しばし二人の間に無言の時間が流れる
「はいはーい。僕がいること忘れてなーい?
ま、とりあえず、青春のむず痒いのはそこまでにしてもらって〜」
こっちまで恥ずかしくなるわ〜と
沈黙を破ったのは先生だった
「あぁ?!なにがだよ!」
茶化されてムキになった彼をまぁまぁと苦笑いしながら宥める
〜♪
「お、下校時間だね」
「もうそんな時間ですか。」
「帰る。」
座っていたベッドから立ち上がり彼が入口の方へ向かおうとする
まだ足は痛そうである
「あの、足大丈夫ですか?」
心配になり声をかける
立ち止まって振り向きはせず
「落ちた時よりは痛くねぇし大丈夫だろ」
といって扉に手をかけた
なんとなく歩き方はぎこちない
心配だ…
「んーじゃあさ、佐倉くん途中まで付き添ったげなよ。確か二人とも電車通学だし駅までは一緒でしょ?」
「え、そうなんですか?」
「あー、まぁ」
「?」
なんとなく歯切れが悪い気がするが、そこまで歩いて15分くらいはかかるので何かあったとき支えられるよう付き添うのはありだなと
まぁ支えられるかどうかはわかりませんが…
「えと、迷惑でなければ、付いていっても「迷惑なんかじゃねぇ!!…あ、いや、わるい…」
「ふふっ、じゃあ、一緒に帰りましょうか」
急に大きな声で言葉を遮られて驚いたが、ハッとしてシュンとした彼がなんだかおかしくて笑ってしまった
「っ…笑ってんじゃねぇ…」
消えいりそうな声で怒られてしまった
「いや、すみませ。ふっ」
「ーーッ」
恥ずかしかったのか耳まで赤くなっている
「ごほん。じゃ、黒川のことは佐倉くんにお任せするね〜」
俺は片付けするからさぁ帰った帰った〜
と先生に荷物を渡され保健室から二人押し出された
「じゃあ帰りましょうか。えっとくろかわ、さん?」
「黒川旭。あと同級生だからさん付けもいらねえよ」
少し不満そうな声で名前を教えてくれた。
同級生だったのか、こんなに目立つのに見覚えないのはなんでだろ
「じゃあ黒川くん?でいいのかな」
「ん」
短い肯定の返事が返ってきた。
「あ、そういえば、ぼくの名前言ってませんでしたね。佐倉です。佐倉真紘」
「知ってる」
「え」
特に目立っているわけでもないぼくの名前を知っているとは、もしや、初対面ではない?
だから不満そうだったんだろうか
「城崎から聞いた。」
「あぁ、蓮くんでしたか」
城崎蓮くん同じクラスで一緒に保健委員になった友人
そんなところに繋がりがあったとは
ふと黒川くんをみると何故か不満そうに目を細めていた
何故だ?
「旭でいい」
「え?」
「俺も、名前呼びでいい」
「?…えっと、旭くん?」
「おう」
不満そうな視線がなくなった。
あと何故か少し嬉しそうに見える
そんなに名前呼びが良かったのかな
登場人物
佐倉 真紘
高校一年生 1-c 保健委員
趣味は食べ歩き
黒川 旭
高校一年生 1-a 帰宅部
不良??
城崎 蓮
高校一年生 1-c 保健委員 その他色々
佐倉と黒川の共通の友達??
宇奈月 先生
保健室の先生
生徒にも同僚にもフランクに接する人気者
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