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第2話
「「……」」
最寄駅まで一緒に行くことにはなったが
共通の話題が見つからない
旭くんはなぜかぼくとは反対側をずっと見てるし
やっぱりお節介だったのだろうかと少し不安になる
うーん。なにか話題……あ、そういえば
「あの、蓮くんと旭くんはお友達?なんですか?」
「………」
じとっとこっちを見る旭くん
もしかして触れちゃいけなかった?
いや、でもさっきぼくの名前聞いたって言ってたし…
「…友達ってか、腐れ縁。家が近所なだけだ」
あ、返事返ってきたから大丈夫、だったのかな?
「そうなんですね。ということは中学も一緒だったとかですか?」
「っ……一応な」
「幼馴染っていうやつですね。なるほど、だからぼくのことも話題に上がったんですね」
「腐れ縁だ」
「ふふっ、そうですね。腐れ縁、ですね」
なんで蓮くんから名前を聞いたのかと不思議だったが解決した
スッキリした、なんて思っていたからだろう。中学という単語に旭くんがびくりと反応したのをぼくはこの時見逃していた
「…佐倉は、あいつと仲良さそうだよな」
「そうですね、仲良くしてもらってます。入学式のあと教室に行ったら席がたまたま前後で蓮くんから話しかけてくれたんですよ」
「そうか、うるせーだろ、あいつ」
旭くんは何か思い出したのかうげぇっといった顔をしている
「あはは
確かに賑やかですけど、話してて飽きないですよ。クラスでも人気者ですよ。運動も得意ですし、よくいろんな部活に助っ人で呼ばれてるみたいですよ」
そういえば、今日もバスケ部に呼ばれて
体育館行ってくる!!っていってたな
クラスに二人の保健委員もぼく一人だけになりそうだったところをじゃあ俺が!!って挙手してくれたのが蓮くんだった
「お節介焼きで忙しいのは相変わらずなんだな」
「ふふ、それが蓮くんのいいところですけどね」
「ふはっ
まぁそれがねぇとあいつじゃねぇしな」
あ、なんか自然に話せてる気がする
ありがとう、蓮くん!いつも助けられてます!
しばらく話をしながら帰り道をすすんでいたらいつの間にか駅前の広場まで来ていた
ふわりと甘い匂い
何軒か並ぶテナントの中にクレープ屋をみつけた
そういえば雑誌に載ってたオープン日が今日のお店かな
シュガーバターのシンプルなクレープがおすすめって書いてあったなぁ
生地の焼ける香ばしくてすごくいい匂い
ぐぅぅ
「あっ」
おどろいた顔の旭くんと目が合う
「えっと。その…」
恥ずかしくて顔を逸らしてしまった
顔が熱くほてっている気がする
「……ちょっと待ってろ」
そう言われて近くのベンチに座るように促された
旭くんはぼくが座ったのを確認してクレープ屋の方へ歩いていく
しばらくして両手にクレープを持った旭くんが帰ってきた
ん、と目の前にチョコバナナとシュガーバターのクレープが差し出される
「??」
「どっちがいい?」
「え!?いや、そんな悪いですよ」
「いーんだよ、手当の礼だ」
そういってまたどっちだ?っと聞いてくる
お礼ってことだし、受け取っていいんだろうか
悩んでいたが旭くんが引き下がる様子もないので好意に甘えることにした
「じゃぁ、こっちで」
シュガーバタークレープを指差すと
「やっぱそっちか」
旭くんがふっと目を細めて笑った
「??やっぱり?」
「いや、なんでもねぇ。
電車の時間までもう少しあるし食おうぜ」
「あ、はい。ありがとうございます」
クレープを受け取ると旭くんもベンチに腰掛けた
「いただきます」
クレープに齧り付くとバターの良い香りとお砂糖の甘みが口の中に広がる
「んぅ!んいひい!」
「そりゃなにより」
「んぐっ。ありがとうございます!これ食べたかったんです!」
「お、おう!どういたしまして」
プイッとそっぽをむいてチョコバナナクレープにかぶりついた
「ほんとだ、うめぇな。
クレープなんて久しぶりに食べた」
旭くんはそう呟きながら口元についたクリームを親指で掬って舐めとる
うわぁ絵になる…
「……っ…こっちも食うか?」
じっと見つめていたら旭くんが自分のクレープを僕の方に差し出してきた
「え?」
「さっきからじっと見てたろ」
「あ、あぁ、へへ、バレてましたか」
クレープというより旭くんを見てた、なんて言えないので笑って誤魔化した
「ほら、ここ、バナナとチョコんとこ」
食べて良いぞと口元に持ってきてくれる
お言葉に甘えてそのまま齧らせてもらった
「んむっ……んん!こっちもおいひいでふね!」
これぞクレープ!甘い!王道の味だ!
幸せ…
「ふはっ、佐倉はほんとに美味しそうに食うよな。」
「美味しいものは美味しくいただきたいですから!」
ぼくにとって一番幸せな時間
美味しいものを食べるこの至福の時は何者にも代え難い
にしてもここのクレープ屋は当たりだなぁ
帰りに寄れる場所だしまた今度来よう
なんて、考えていたら頬に指の感触がした
「クリーム、ついてるぞ」
「ん、ありがとうございます、はむっ」
「っっっ?!?!?!」
「???……あ゛っっ」
拭き取ってくれたクリームを旭くんの指ごといただいてしまった
ぱっと指から口を離して距離を取る
やばいやばいやばい!つい、目の前に食べ物が出てきたからやってしまった!
うわぁあ!!変なやつだと思われる!!
「あ、ぁっぁあ、あのっ!ごめんなさい!」
「お、ぉおぉおう!!いや!だ、だだだだいじょぶだだから気にすんな!」
「「…………」」
気まずい…恥ずかしいぃ…
「……佐倉」
「はっひゃい!?」
「誰にでも、んなことしてるのか?」
「いえ!そんな!断じて誰彼構わずこんなことは!!さっきは気が抜けてて!!つい!!食べ物が目の前にあるとなんというか!その!ちょっと判断が鈍ると言いますか…」
苦しい言い訳である
あーだこーだと喚いていると今度は人差し指が口元に当てられた
「佐倉、ちょっと声がでけえ。少し声抑えような」
「す、すみません…」
うぅ…申し訳ない…周りの人たちも何事かとこっち見てるし…
「いや、俺も悪かった」
すまん、と謝る旭くん
いや、君は悪くないよ、ぼーっとしてるぼくが悪いのだ
落ち込んでいたらわしわしと頭を撫でられた
「ありがとうございますぅ…」
落ち着くためにクレープを思いっきり頬張る
「ん、ゆっくり食えよ。
あー…その、あれだ、、俺は下に兄弟もいるし慣れてっからあんま気にすんな」
「旭くんは優しいですね。」
なんだかとても甘やかされている気がする
このお礼はいつか必ず…
あ、でも、連絡先も知らないし、学校でも見かけたことがないのに、どうやってお返しすれば
「あの!旭くん!」
「おう?!なんだ急に?」
「連絡先!交換しましょう!」
「は?」
「今日はぼくが色々お世話になってしまったので何かお礼をしたくて!
でも、連絡手段がないなって、だから、連絡先を…って急に迷惑でした、か?」
よくよく考えたら、知り合ったばかりでこんなに図々しいのは迷惑、だよな…
しゅんとしていたら隣でガサゴソと何かを取り出す音がした
「mineでいいか?」
「えっいいんですか?」
「そっちが言ってきたんだろ」
ほら、スマホ貸せと言われて、手に持っていた自分のものを渡す
しばらくしてほらよと返してくれた
画面を見ると 黒川旭 友達登録しましたという通知と
黒いデフォルメされた熊のスタンプでよろしくと来ていた
こちらこそよろしくねとハムスターのスタンプを送信する
「ありがとう、旭くん」
「ん」
そっけない返事に似合わない熊のスタンプを見返して
なんだか、暖かい気持ちになった
そのあとは、クレープを食べ
出発時間が迫ってきたで駅の改札へ向かった
「じゃ、俺はこっちだから」
と、ぼくの乗る電車とは反対方向に向かうホームを指差す
「はい!今日はありがとうございました。足、気をつけて帰ってくださいね」
「あぁ、こっちこそありがとな」
ひらひらと手を振ってお互い階段に向かう
「あ、そうだ!帰ったらmineしてもいいですか?」
「おー、待ってる」
〜🎵 2番ホームに電車が参ります。大変危険ですので黄色い線まで下がってお待ちください 〜🎵
「電車、来たぞ」
「ですね。それじゃあ またあとで!」
そう言ってホームへの階段を駆け上がる
なんだか、いつもより浮かれている自分がいる
何故だかはわからないけれど
気になっていた、クレープを食べられたから、かな?
疑問は綺麗には解消されなかったけれど、帰ったら旭くんに無事家に着いたか確認しなくちゃな、なんて考えながら電車に揺られた
…✴︎⭐︎★⭐︎✴︎…
mine:スマホのメッセージアプリ Li●e のようなもの
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