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第1話 傷心男とウリ専ボーイ(5)★

    ◇  風俗店『Oasis』は繁華街からやや離れたところにある、ひっそりとしたテナントビルで営業していた。表にあるのは表札のみ。一見事務所のように思えるが、その実態はプレイルームを完備した風俗店で、テナントビルを一棟丸ごと貸し切っているらしい。  早速カウンターで受付を済ませると、プレイルームの一室に通された。程なくして部屋のドアチャイムが鳴り、目的の人物――ナツが姿を現わす。 「こんばんは、ナツです! 隆之さん、マジで来てくれたんだっ?」  ドアからひょこっと顔を覗かせ、人懐っこい笑みを浮かべるナツ。そんな彼を部屋に招き入れるなり、隆之は鞄から茶封筒を取り出した。 「濡らした服のクリーニング代、バーでの酒代、ホテル代、諸々支払いに来たんだが……これで足りるか?」  言って、テーブルの上に置く。すると、ナツは一瞬きょとんとしたものの、すぐに吹き出した。 「アッハハハ! そんないいのにっ、隆之さんってば律儀すぎ!」 「そういうわけにもいかない。金銭のやり取りは、きちんとしておかないと気持ちが悪いんだ。それに……君にはいろいろと面倒をかけてしまったし」 「えー? お店に来てくれたからチャラ、ってことでよくね?」 「とにかく、世話になった礼も兼ねて置いていくから」 「わっ、待った待った! まさかもう帰るつもり!?」  踵を返した途端、ナツが慌てた様子で腕を掴んできた。 「勘弁してよ~、今帰られたらオーナーにどやされるっての!」  さすがにそう言われると足も止まる。  相手からしたら、金額に見合ったぶんのサービスを提供するのが当然の義務なのだ。それを一方的に踏み倒すような真似もどうかという話である。 「わかったよ。時間までここにいるから、あまり引っ付かないでくれるか」 「……俺に触られんの、嫌?」 「そういうわけじゃないんだが」  振り返れば、顔色をうかがうようにこちらを見上げているナツと目が合う。  こういった場所で働いているだけあって、随分と整った顔をしている。長いまつ毛に縁取られた切れ長の瞳、すっきりと通った鼻筋に薄い唇。決して女っぽいわけではないのだが、妙に色っぽさを感じて、隆之は不覚にもドキリとしてしまう。 (って、なに考えてんだよ)  先日の一件もあってどうにも居心地が悪い。さりげなく視線を逸らしたけども、ナツは逃してくれなかった。グイッと距離を詰めてきては、間近で顔を覗き込んでくる。 「隆之さんって、ちょっと可愛いとこあるよね」 「はあ?」 「顔、赤くなってる」  不意に首元へ抱きつかれて、隆之の体が強張った。ナツは甘えるようにして擦り寄ってくる。 「やめろって。俺にそんな趣味はない」 「でも、人肌の温もりって安心するでしょ? あの日、隆之さんはなんて言ったと思う? ……『一人にしないでくれ』って言ったんだよ」 「………………」 「きっと寂しいんだよね。俺さ――ここにぽっかり穴が開いちゃった人、見過ごせないんだ」  言いながら、ナツは隆之の胸元を撫でた。まるで愛おしむかのように。 「寂しさ、あるいは単純な性欲の話でもいい。人間なんだから、どうにもならないものってあんじゃん? 俺はそーゆーのを埋めて、癒してあげられたら嬉しいって思うワケ」 「そうは言っても……」 「ここには、俺と隆之さんの二人しかいないよ。この意味……わかる?」  互いの息遣いを感じるほどの距離まで近づき、上目づかいで見つめられる。  ナツが言うことも一理あった。人肌が恋しい――その感覚は当然、隆之のなかにも存在しているもので、ぐらりと理性が崩れそうになる。 (……男相手だってのに)  どうしてこんなにも抵抗がないのだろう。先日だってそうだ、驚きこそしたものの嫌悪感は全くなかった。  それこそ、本当に誰でもいいから傍にいてほしいという感情なのか。そう思っているうちにも、いつぞやのように唇を重ねられた。 「何も言わなくていーよ。スーツ、脱がせてあげるね」 「ちょっ」  ナツは素早くジャケットを脱がせ、ネクタイをほどきにかかる。Yシャツやスラックスも脱がせてしまうと、シワにならないよう丁寧な手つきでハンガーにかけてくれた。  認めたくはないが、ここまできたらもう本心には逆らえない。隆之は流れにすっかり身を委ねてしまっていた。 「ね、一緒にシャワー浴びようよ」  下着のゴムに指をひっかけられ、ゆっくりと下ろされる。  こちらが返事をするまでもなく、ナツも服を脱いで全裸になった。露わになった裸体は華奢で体毛が薄く、こう言ってはなんだが綺麗だと思えた。 「……隆之さんのエッチ」  視線に気づいたナツがニヤニヤとして言った。 「別に、俺はそんな目で見てないっ」 「ハハッ冗談だよ! 行こっ?」  手を引いて浴室へと連れていかれる。  次いで体を密着してきて、デリケートゾーンを中心に洗われた。泡のついた手であちこちまさぐるものだから、なんだか介護されているかのようだ。

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