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第1話 傷心男とウリ専ボーイ(7)★

「………………」  この期に及んでほんのわずかに理性が残っていたらしく、返答に困り果ててしまう。  それに気がついたのか、ナツが肩越しに振り向いてきた。 「準備してあるからすぐ入っちゃうよ? ……俺、隆之さんにバックで突かれたいなあ」  言い訳にしていいよ、と言われた気がした――途端、隆之のなかで何かが弾ける。 「っ、くそ」  ベッド脇にあったコンドームのパッケージを手に取ると、勢い任せにビニールの包装を破った。コンドームを手早く自身に装着するなり、すぐさまナツの窄まりへと宛がう。 「ん……はっ」  表面のローションを塗りつけるだけでも、ナツは小さく喘いだ。  角度が定まったところで細い腰を掴み、自身をゆっくりと挿入していく。 「っあ、ん――でっかいチンポ、入ってくるぅ……」  肉壁を押し広げながら呑み込まれる感覚とともに、ナツの口から吐息混じりの声が上がる。  さすがに狭くはあったが、中にはローションが仕込まれており、入り口さえ通ればあとは問題なかった。やがて全てが収まって、隆之は小さく息をつく。 「動くぞ」  短く告げて律動を開始すれば、ナツの背中が大きく仰け反った。 「あ、ん、あぁ……っ」  パンッ、と肌同士がぶつかる音が響くたび、ナツが悦ぶように甘ったるい声を上げる。愛らしい――そう思えてしまうのが不思議だった。隆之は相手が同性であるという事実も忘れ、ひたすら欲望のままに貪ってしまっていた。 「やっぱ体の相性よすぎっ……隆之さんも気持ちい?」 「ああ、気持ちいい……」 「んっ、嬉しい……ねえ、もっと突いてよ――奥までガンガン犯してえ……っ」  スピードを上げて抽送を続けるうち、ナツもこちらに合わせて腰を振ってくる。  その姿のなんと淫猥なことか。自分のものが激しく出入りする結合部もさることながら、媚びるような仕草や言葉にますます煽られていく。隆之は夢中になって自身を打ちつけながら、快楽を追い求めた。 「あっやば、隆之さんのチンポ、マジでいい……俺、イッちゃいそう」 「っく、俺も」  ラストスパートをかけるべく、ナツの体を背後から抱きしめてより密着させる。そのまま一心不乱に腰を動かし、高みへと昇り詰めていった。 「も、イく、たかゆきさんっ……おれ、イッちゃうよお――あ、あぁッ」 「……ッ」  ナツの体が大きく震えると同時に窄まりが一気に収縮し、隆之は堪らず精を放った。残滓まで搾り取られる感覚を味わいながら視線を落とすと、ナツのものがシーツに染みを作っていて、互いに達したことを知る。 (汗ばんで火照った肌が心地いい……)  射精後の倦怠感もあってか、隆之はナツの背にもたれかかって脱力した。ところが非常にも、そこでピピピッとタイマーの音が鳴ったのだった。 「おっと、もう時間きちった。延長する?」 「……いや、いいよ」  どこか名残り惜しく思いつつも、身を離して返事をする。  その後、再び浴室で体を洗ってもらい、来たときと同じように身支度を整えてもらった。料金は前払い制だから、あとは退室するのみ――だったのだが、 「忘れ物だよ!」  ナツが身を寄せて、ジャケットの内ポケットにするりと手を滑り込ませてくる。渡されたのは、本来の目的として隆之が用意していた茶封筒だった。 「これは置いていくって話じゃ」 「俺が好きでやったことだし貰えないってば。その代わり、このお金使ってまた会いに来てよっ」 「……は?」 「それから俺、アロママッサージなんかもできるし、もうちょい時間長めだといいかなあ~なんて。イッたあとにマッサージされんの気持ちいよ?」  思わぬ申し出に困惑する。が、そんな隆之をよそにナツは勝手に話を進めてしまう。その表情には屈託がなかった。 (随分と営業上手な子だな……)  しかし、それでも構わないか――そう思えるのは彼の人柄のせいだろうか。  ここへ来たときとは、心の持ちようがすっかり変わっていた。傷心していた心が安らいだのも事実で、隆之は断る理由を持たなかった。 「わかった。次も君を指名させてもらうよ――ナツ」  ナツ、と初めて名を呼ぶ。  すると、彼は嬉しそうに目を細めて笑った。 「うんっ、隆之さんのこと待ってんね!」  その笑顔は、夜の店には似つかわしくないほどに眩しく魅力的だった。

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