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第4話 加速する疑似恋愛(5)★

「……隆之さんの匂いがする」 「あまり嗅ぐなよ」  つい率直な感想が出てしまい、眉根を寄せられる。マフラーはカシミア製のもので肌触りがよく、何よりも彼の匂いを感じられてドキリとした。 「えっと、これ借りてもいいの?」 「薄着してきたみたいだし、それじゃあ寒いだろ? 次会うときに返してくれたらいいから」 「でも、いつになるかっ」 「大丈夫。また来週にでも指名させてもらうよ」  ――指名。その言葉に、隆之との関係を改めて思い知らされる。  いくら恋人同士のように過ごしたって、所詮はボーイと客なのだ。一気に現実へと引き戻された気がして、胸がチクリと痛んだ。 「ありがとう。じゃあ、しばらく預かってんね」  そう言って、ナツは名残惜しさを感じつつ別れを告げた。 「はーあ……」  帰宅するなり、自室のベッドへと寝転ぶ。隆之と別れてからというものの、無性に寂しくて堪らなかった。  そっと目を閉じて、先ほどまでのひと時を思い出す。首元に巻いていたマフラーへ顔を埋めれば、隆之の存在をより強く感じられた。 (隆之さんは、どうしてあんなによくしてくれるんだろ。『ナツ』が自分のものになるだなんて思ってないのに)  隆之は客という立場をわきまえながらも、こちらの心情をいつも慮ってくれている。それが嬉しくもあり、同時にもどかしさを感じてならない。  熱心な常連客はそれなりにいるが、明らかに態度が異なる。プライベートな連絡先さえ訊こうとしないのだから相当なものだ。他の客には絶対に教えないけれど、彼になら――いやむしろ、こちらが訊きたいまであるのに。 (あーなに考えてんだろ。このままじゃ駄目だ、気持ち切り替えないと……)  明日からはまた別の指名があるのだから、一人の客に固執しているわけにもいかない。だが、隆之のことを思えば思うほど切なさが増していくようだった。 「隆之さん――」  マフラーに顔を埋めたまま、ナツの手がするすると下腹部へと降りていく。さんざん体を重ねたにも関わらず、熱を帯びた自身が窮屈そうにスキニーパンツを押し上げていた。 (ごめん、隆之さん……ちょっとだけ許して)  我慢できずに下衣をすべて取り去ってしまうと、ベッド下の収納ケースに手を伸ばす。手探りで取り出したのはローションのチューブと――そして、アナルバイブだった。  うつ伏せになってローションを手に垂らす。たっぷりと濡らしたところで、自らの後孔へと塗りつけた。 「んっ、ふ……」  ほぐす必要もないそこは、指先で軽く触れただけでヒクつきを見せる。  もう居ても立っても居られずアナルバイブの先端を宛がい、ゆっくりと挿入していった。 「ふあっ、あ……あんっ」  うっとりとして息を吐く。  アナルバイブは弾力のあるビーズがぼこぼこと連なった形状をしており、かなり奥まで届く代物だ。抜き挿しするたび、大小交互に配置されたビーズが次々と快感を生み出して、思わず口から甘い声が漏れてしまう。 「んあ、あっ、隆之さん……」  ナツは自然と、隆之とのセックスを思い出しながら自らを慰めていた。  バイブレーションの電源を入れれば、ブウゥン……という低い音とともにアナルバイブが振動し始める。ビーズの部分がいいところに触れるたびに腰がビクビクッと跳ね上がり、甘美な痺れが全身を駆け巡った。特に引き抜いたときなんかは、体の内側が持っていかれるような感覚がして、堪らなく癖になるのだ。 「あぁ、たかゆきさんっ……きもちい、よお」  でも、見かけによらず隆之はもっと激しくて――不意にそんな考えがよぎり、胸がきゅうっと切なくなる。  こんなものでは到底足りなかった。空いていた手をシャツの中に潜り込ませると、ぷっくりと膨らんだ突起に爪を立てる。そのまま捻ったり、引っ張ったりして刺激を与えていった。 「っあ、はん……っ、ン、あぁ……」  ここは痛いくらいの方が気持ちいい。  そうやって乳首を虐めながらも、アナルバイブの振動を一番強くして快楽を追い求める。  限界はすぐそこだった。勢いよくアナルバイブを引き抜いた瞬間、電流が走ったかのように体が震えて、ナツはあっけなく絶頂を迎えた。 「ひ、ああぁっ!」  シーツの上に搾りかす程度の精液を放つ。  しばらく余韻に浸りたかったけれど、不意に虚しさがやってきて、ナツは体を丸めるように横向きになった。そっと隆之のマフラーに顔を擦り寄せる。 「お金ありきの関係って……なんか嫌、かも」  ぽつりと呟いた言葉は、誰の耳にも届くことがない。静まり返った室内に消えていって、あとには何も残らなかった。

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