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第6話 恋に臆病な僕らのリスタート(5)★

「挿れるぞ」  低く告げれば、うっとりとした表情で夏樹が見上げてきた。  熱い切っ先を宛がい、隆之はゆっくりと腰を押し進めていく。 「ふあっ、あ……あぁ」  ヌチュッと濡れた音がして、亀頭が熱い肉壁に包まれる。たちまち夏樹の口から甘ったるい声が漏れ、その体は歓喜に打ち震えた。 「あっ、生のチンポ……っ、すげ、きもちい……よぉ」  うわ言のように呟いて、夏樹が隆之の背に腕を回してくる。  隆之は愛おしさを感じながら、奥深くへと自身を挿入させていった。  薄いゴム越しではない、生々しい感触に全身の血流がめまぐるしく駆け巡る。きっと夏樹も同じなのだろう。結合部は小刻みに痙攣しており、触れた部分から伝わる脈動がどんどん速くなるのを感じた。 「夏樹――」 「ぁ、ああぁ……っ」  そのまま根元まで挿入すれば、夏樹は背を仰け反らせながらビクビクッと跳ね上がった。同時に隆之のものを強く締めつけてくる。  夏樹が絶頂を迎えたのは明らかだった。けれど精液は吐き出されておらず、いまだ張り詰めたまま――どうやらドライオーガズムで達したらしい。 「……ナカがすごく痙攣してる。挿れただけでイッたのか?」  汗で貼りついた髪を払い除けてやって問う。夏樹はぼんやりとこちらを見つめ、どこか焦点の合わない瞳で「うん」と小さく答えた。 「いつもより、感触がリアルで――こんなので突かれたら頭バカになりそ……」  熱に浮かされたような声で囁かれ、隆之の心臓が大きく高鳴る。  ここまで露骨に煽られては、もはや自制など効くはずもない。隆之は夏樹の太腿に手をかけて、何も言わずに律動を開始させた。 「あっ、ン、あぁっ!」  激しく突き上げるたび、夏樹の口からはあられもない声が上がる。ベッドのスプリングが軋む音に、肌がぶつかる音や卑猥な水音。それらすべてが興奮材料となって、隆之の欲望をより一層駆り立てていく。 「……夏樹」  隆之は抽送を繰り返しつつ、耳元に唇を寄せて名を呼んだ。すると、夏樹の肩が小さく揺れ、とろんとした瞳を向けてくる。 「隆之さんっ……もっと、名前呼んで……っ」  回した腕に力を込め、夏樹が懇願する。  隆之は口元を緩めると、求められるままに何度もその名を口にした。 「夏樹、夏樹……好きだ」  そうして、首筋や鎖骨に口づけを落としていく。  夏樹の体は従順だった。悦びを露わにするかのように内壁がきゅうきゅうと締まって、隆之のことを離さない。 「あ、ああっ、隆之さん……おれも好き、だいすき――」  舌足らずな口調で言って、夏樹がキスをせがんでくる。  隆之は応じるように舌を差し出し、絡ませ合いながらも、律動をさらに激しいものに変えていった。  夏樹の脚を抱え込んでしまい、結腸の入口を穿てば、きゅうきゅうと粘膜が絡みついてくる。 「んっ、あ、深いっ――そこ、いい……きもちいっ」  口づけの合間に漏れ出る喘ぎはどこまでも甘い。快楽に蕩けた表情は艶やかで、隆之はますます欲情してしまう。 「俺も気持ちいい。もう、熱くて溶けそうだ」  掠れた声で言うなり、目の前の体をきつく抱きしめた。本能のままに腰の動きを速めれば、夏樹は喉を仰け反らせて甲高い声を上げる。 「ひ、あっ、隆之さんのチンポ、すごいビクビクして……あ、ああぁっ」 「っは、夏樹」  限界が近いのはお互い様だった。  隆之が息を荒げてラストスパートをかけるなか、夏樹も自ら腰を揺らして快楽を追い求める。互いの体を密着させながら貪るようなセックスに没頭し、いよいよ高みへと昇り詰めていった。 「夏樹、一緒に……」 「んっ、おれもイク、イクうっ……このままナカにだして――たかゆきさんので、いっぱいにしてえっ」  夏樹が切なげに訴えて、隆之のものを締めつける。  隆之は息を詰め、それに応えるかのごとく渾身の力を振り絞り――、 「くッ」 「ああぁああ……っ」  最奥目掛けて腰を打ちつけた瞬間、自身が大きく脈打って大量の精液が放たれた。  ドクドクと注がれていく感覚に身を震わせながら、夏樹もまた吐精し、二人の間に白濁を撒き散らす。後孔はきつく収縮を繰り返し、隆之の欲望を残滓まで搾り取ろうとする勢いだった。 「っあ、は……隆之さんのザーメン、すげー量でてん、ね……? お腹んなか、あついや」  恍惚とした表情で、夏樹が吐息交じりの声を漏らす。  隆之はまだ余韻に浸っていたくて、繋がったままの状態で夏樹の頬に手を伸ばした。指の腹でそっと撫でてやれば、猫のように擦り寄ってきて甘える仕草を見せてくる。 「ねえ、隆之さん」夏樹が静かに口を開いた。 「うん?」 「俺、今日のエッチが人生で一番気持ちよかった。……ハハッ、柄じゃないかもだけど、なんつーか幸せなカンジする」 「夏樹……」 「でもちょっと怖いかも。全部夢だったりしてさ、朝起きて隆之さんがいなかったらどうしよう」 「夢であってたまるか。俺はちゃんと夏樹の傍にいる――一生かけて大事にすると決めたんだから」  隆之がきっぱりと言い放つと、夏樹は目を瞬かせたのち照れくさそうにはにかんだ。 「……隆之さんって真面目な人だとばかり思ってたけど、結構ロマンチスト?」 「かもしれないな」  二人してクスクスと笑って、汗ばんだ肌を隙間なく重ねる。互いの体温を感じ合えば、それだけで心が満たされた。

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