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第6話 恋に臆病な僕らのリスタート(4)★
玄関ドアを閉めた途端、二人はどちらからともなく抱き合ってキスをした。最初から舌を絡めて、互いを求め合うように深く貪っていく。
隆之の手は、自然と夏樹の体に伸びていた。服の上からまさぐっていると、その口から艶かしい吐息が漏れる。
「ん……ハハッ、隆之さんってばまだ玄関だよ?」
「悪い、つい気が急いて。ベッド行くか」
言って、夏樹の手を引く。
寝室に入るなり、もつれるようにベッドへと倒れ込んだ。互いに上着を脱がせ合いながら、再び深い口づけを交わす。
「ん、はっ……最後に忘れられないほど抱いてもらおうと思ったのに、逆になっちった」
唇が離れたところで、夏樹が苦笑して呟いた。
「逆?」
「初めて、ってこと」
夏樹は隆之が着ていたニットの襟ぐりをずらし、力強く鎖骨に吸いついてくる。濡れた感触とともに鈍い痛みが走り抜け、隆之は思わず肩をびくつかせた。
「っ!」
「恋人同士になってから初めてエッチする、って思うとやばい。……ねえ、隆之さんも俺にいっぱい痕つけてよ」
顔を上げた夏樹の表情は恍惚としていた。自らシャツの襟元を緩めて、こちらに首筋を差し出す。
こんなの煽られないわけがない。体毛が薄く透けるように白い肌は、同じ男とは思えないほどで、隆之は生唾を飲み込んだ。誘われるがままに首筋に顔を埋め、力を込めて吸い上げる。
「あ、んっ」
夏樹はゾクゾクと体を震わせて、隆之の頭を掻き抱いてきた。その反応に気をよくし、隆之はシャツをはだけさせて、いくつもの鬱血の痕を残していく。
もちろんのこと、店側のルールとしてボーイへの外傷行為は禁じられていた。二人の関係性が変わったのだと実感させられて、得体の知れない高揚感が――いや、心の底にあった独占欲が満たされていくのを感じた。
「やっと、君を独り占めできるんだな」
「隆之さんにも独占欲とかあったんだ?」
「どうにもそうらしい」
胸元へと顔を寄せると、期待に満ちた眼差しで見つめられる。隆之はフッと笑い、乳首にきつく歯を立ててやった。
「ひ、うぅ……ッ!」
夏樹が悲痛な声を上げて、背を弓なりにしならせる。
噛み痕からはわずかに出血が見られた。労わるように舌先で舐め取りつつ、ふと視線を下げれば、ズボンの中心がはち切れんばかりに膨らんでいることに気づく。
まだあまり触っていないというのに随分な有り様だ。このままでは窮屈だろうと、隆之はベルトに手をかけて外しにかかった。
「やっ、ま、待って……自分でっ」
夏樹が焦った様子で手を掴んでくる。
しかし、隆之はお構いなしだった。制止の声を無視して、下着ごと一気に下ろし――そして固まる。
「だから言ったのにい」
「す、すまない。先に脱がせておけばよかったな」
先ほどの刺激で絶頂してしまったらしく、夏樹の下着はぐっしょりと濡れていた。いやらしく白濁が糸を引いている様を目の当たりにして、隆之は何とも言えない気分になる。
とりあえず下衣を脚から引き抜いてやったけれど、夏樹は真っ赤になって眉根を寄せており、羞恥に耐えているようだった。
「うう、さすがにハズい……こんなの最短記録だよお」
しおらしい、と言ったらいいのだろうか。今日の夏樹はいつもと印象が違って、妙に可愛く見えてしまう。
おそらくは緊張しているに違いない。夏樹にしたって、それに隆之にしたって。今まで何度も体を重ねてきたものの、今日からは《恋人同士の営み》に変わるのだから。
「本当に、初めてセックスするみたいだな」
微笑みかけつつ、ベッド脇のサイドボードに手を伸ばす。引き出しからローションのチューブを取り出すと、中の液体でししどに指を濡らした。
夏樹の両脚を大きく割り開いたのち、奥まった箇所へと触れる。
「っん……」
周囲をやわやわと揉めば、夏樹は鼻にかかった声を漏らして体を震わせた。
隆之は内腿にも鬱血の痕を残しながら、後孔をほぐしていく。そこは何の抵抗もなく異物を受け入れ、さらに奥へと誘い込むように収縮を繰り返した。
「お、俺、そんなことしなくても入るってばっ」
「たまには俺にもやらせてくれよ。本来なら、こうやって広げるもんだろ?」
「ん、あぁっ……」
二本目の指を突き入れ、クチクチと中を掻き回してみせる。
夏樹はシーツを掴み、腰をくねらせて悶えた。その一方で粘膜は物欲しげに蠢き、もっと欲しいと言わんばかりに絡みついてくる。
「なんか、今日ヘン……いつもと、違……っ」
体が鋭敏になっているのか、夏樹はひどく感じ入っているようだ。しこりのある部分を刺激してやると、その反応がいっそう顕著なものとなる。
「あ、ああっ……だめぇっ、そこ、トントンしないでえっ」
「どうして? こうされるの好きじゃないのか?」
隆之は目を細めて、執拗に前立腺を責め立てる。
すると夏樹は甘い吐息をこぼしながらも、いやいやをするように首を振った。
「あっ、ん、やだって……次は、隆之さんのがいいっ――おねがいだから、隆之さんのチンポでイかせてよおっ」
「……君ってやつは」
媚びるような口調で訴えられ、隆之は指を引き抜いた。
荒っぽく服を脱いで上半身裸になり、手早く前を寛げては猛った自身を取り出す。隆之のものは血管が浮き立つほどに膨張していて、先端からは透明な蜜が溢れていた。
「隆之さん……はやく、挿れて」
「少し待ってくれ。すぐ準備するから」
「んなのいーからっ――も、待てない……」
夏樹が自ら膝裏を抱え、秘所を露わにする。コンドームを装着しようとしていた隆之の手が思わず止まった。
肉厚なそこは赤く熟れて、ローションを垂らしながらヒクついていた。まるで男根を待ち望むかのように。
たびたび繰り返される誘惑に、もう隆之の理性も限界だった。逸る気持ちを抑えきれず、夏樹の上に覆い被さる。
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