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エピローグ 君へ誓う未来
季節はめぐり、また新しい年度が始まってしばらく。
仕事を終えた隆之が帰宅すると、夏樹が「おかえりなさい!」と玄関まで出迎えてくれた。
隆之は頬が緩むのを感じつつ、いつものように挨拶を交わしてリビングに入る。そして、襟元を緩めたところであるものが目に入った。
「それ、また見てたのか?」
ローテーブルに置かれた婚約指輪――夏樹に告白した際に渡したものだ。
「だって、俺の宝物なんだもん。初めて出会った日と、告白された日の思い出が詰まっててさ……指にはめられなくても、眺めてるだけで幸せな気分になるんだよね」
指輪が入っているケースを手に取り、夏樹が慈しむような眼差しを向ける。時折こうやって眺めていることは知っていたが、ここまではっきりと言葉にされるとなんだか面映い。
「……それもいいんだが」隆之は頭を掻きつつ切り出した。
「ん?」
「来週の土曜、よかったら予定あけておいてくれないか?」
「えっ、なになに? デートしてくれんの?」
「その……さっき自分でも言ってただろ? 夏樹と初めて出会った日、だからさ」
言うと、夏樹の顔がじわじわと赤く染まった。
「正直、ちょっと期待しちゃってたけど……隆之さんって記念日とか大事にするタイプだったんだ」
「まあ、な」
どうやら互いにその意識はあったらしい。気恥ずかしそうにしている夏樹の頬に手を添え、隆之は穏やかに微笑んだ。
「だから改めて――指輪、一緒に見ないか?」
その言葉に夏樹が大きく目を見開く。ややあってから嬉しそうに顔を綻ばせ、隆之の胸に飛び込んできた。
「隆之さん、大好きいっ!」
「うおっ」
あまりの勢いに、隆之はバランスを崩してソファーの上に倒れ込む。が、夏樹は構うことなく襟元に手をかけてきた。
「ね、今度は箱パカッてすんのやってよ。そんで、指輪のつけ合いっこしよ?」
「そんなこと言いながら服脱がすなって」
「……駄目? なんか俺、エッチしたくなっちった」
と、唇に触れるだけのキスが落とされる。
こんなところは相変わらずだ。隆之は観念したように笑い、夏樹の体を優しく抱き寄せた。
「いいよ、君がその気なら応えるまでだ」
言って、今度は自分から口づける。
こうして愛おしい日々を少しずつ積み重ねていけたらいい――これから先も、ずっと。
ともに歩む未来を思いながら、隆之はそっと夏樹の服を脱がせたのだった。
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