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おまけSS 大胆不敵な恋人宣言
それは、夏樹が隆之と街中を歩いていたときのことだった。
「あれっ、及川?」
ふと聞こえてきた声に、隆之の足が止まる。
ともに声がした方を見やれば、そこには隆之と同い年くらいの男が立っていた。
「ああ、川島。こんなところで会うなんて奇遇だな」
「つーかさ、仕事以外で会うの何気に初めてじゃね?」
どうやら隆之の同僚らしい。川島と呼ばれた男は、人懐っこい笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。
が、彼の視線がある一点に注がれて、夏樹はギクリとする。
(あ、やば……)
――指を絡めるようにして繋がれた手と手。
同性カップルがどのような目で見られるかは理解しているし、人によっては偏見だってあるだろう。他人であればまだいいけれど、知り合いとなると話がまた変わってくる。
夏樹は慌てて体を離したけれど、もう遅かった。
「もしかして、前に言ってた風俗の……って男?」
川島は夏樹の顔を覗き込むようにして言う。
想定していたのと別方向に話がいってしまったが、隆之のためにも同性愛者だと思われたくない。せめてもの気持ちでなんとか誤魔化そうと試みる。
「アハッ、そうなんですよ。僕、ウリ専のボーイやってて――お、及川さんみたいにノンケのお客さんも多いんですよお?」
「ま、マジか! ……でも確かにこんな綺麗な子だったら、その気がなくてもイケるかも」
下手な言い訳にも、川島はさして気にした様子もなく返してくる。それどころか、さらに距離を詰めてきた。
「ねえ、名刺とかある? 実は前立腺マッサージとか気になっててさ。オネエチャンにやってもらうのもいいんだけど、男の方が――」
と、そのとき隆之が動いた。夏樹の肩を力強く抱き寄せると、川島に向かってこう言ったのである。
「悪いが、彼は俺の恋人なんだ。風俗で働いていたのも以前の話だし、手を出さないでもらえるか」
あまりにも大胆な告白に、夏樹は「ええーっ!?」と川島と一緒に声を上げた。しかし隆之は怯むことなく、堂々とした態度を崩さない。
(た、隆之さんってばウソでしょ!? うわっ……俺、絶対顔赤くなってる)
川島に向けられた鋭い視線。それはまさに嫉妬に駆られた男の顔で、夏樹の胸が高鳴ってしまう。が、嬉しくて堪らない反面、どう説明すればいいものかと困惑していた。
そんな心配をよそに川島はというと、
「うらやまけしからんッ!」大げさな仕草で嘆いてみせる。「どうやったら風俗で働いてた子と付き合えんだよ! しかもすげーガチっぽいし、なにこの甘ったるい雰囲気!?」
「いやまあ、それはいろいろとあってだな……」
ますます話が思わぬ方向に向かっていく。
その後もあれやこれやと言葉が交わされ、川島は「このことは他の連中には黙っておくよ、男の約束は絶対だ!」と言い残して立ち去っていったのだった。
「……もーどういうつもり? フツーに考えて、会社の人にカミングアウトすんのはマズいっしょ?」
川島の姿が見えなくなったところで、夏樹は問いかける。
「そういうものなのか?」
「そういうものなんですっ、ヘンな噂とか立ったら困るのは隆之さんなんだよ?」
「だとしても、夏樹がああいった目で見られるのは嫌だったんだ。それに気をつかって言い訳までさせて――恋人として黙っていられるわけないだろ」
隆之は至って真面目な顔で言う。そのストレートな物言いに、夏樹の顔がいっそう赤く染まった。
「……隆之さん、直球すぎてマジやばい」
トクントクン、という胸の鼓動を感じながら身を寄せる。それから、耳元でおねだりでもするかのように囁いた。
「ねえ、ホテル行こ?」
「なっ」
「今すごくエッチしたい。お家までもたないよ、これ」
「……我慢できないのか?」
「ん、だって『隆之さんに愛されてるなあ』『大切にされてるなあ』って感じるたび、胸がいっぱいになってムラムラしちゃうんだもん」
隆之は面食らった様子だったが、やがて照れくさそうに頭を掻いた。どうやら満更でもないらしい。
(隆之さんのこういったとこも好きなんだよなあ)
隆之の腕に自分の腕を絡めると、ラブホテル街へと足を向ける。直球勝負ならば、夏樹だって負けていない。
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