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8 俺が天音を助けてやりたい
シャワーはあとでいいと言う天音の身体をティッシュで拭ってやると「いいってそんなの」と素っ気ない態度。
抱いてるときはあんなに可愛いのに、ほんとギャップやばいな。
俺に背を向けていて顔は見えないが、きっとまた無表情なんだろうと思うとまた天音が心配になった。
「天音」
「……なに」
乱暴なセフレなんて切っちゃえよ、と言ってしまおうと思ったが思いとどまった。
まだわからないのに決めつけるのはよくないよな。
「あのさ。最後まで抱いといてアレなんだけど。お前、もしかしてさ……」
とはいえ遠回しに聞いてもだめだろうし、ここははっきり聞こう。
天音、素直に答えるかな。
「お前、他のセフレに乱暴にされてる……?」
「……っえ?」
驚いたように振り返った天音の目は、わずかに涙で濡れていた。
泣いてたのか? 終わってホッとした?
どんな気持ちで泣いていたのかと思うと胸が締め付けられた。
「お前の身体の震え、ちょっと普通じゃないよ。前にそういう子抱いたことあってさ。痛い経験しかしたことなかったっていう子。今日のお前、その子とそっくりだった。……他のセフレ、だろ?」
じっと天音を見つめたが、天音は相変わらず無表情に俺を見返した。
まるで感情のないロボットみたいだな……。ほんと、大丈夫なのか……?
「それにさ。お前はまだイッてないのに、相手がイッたらそこで終わりって……そんな抱かれ方されてるんじゃねぇの?」
その言葉に反応して、一瞬天音の目が見開かれた。
でも、それもすぐに元に戻って、また感情の無さそうな眼差しになる。
答えを急かしてもだめだと思い、天音が答えてくれるのをゆっくりと待った。
すると、天音が静かに口を開いた。
「……今のセフレじゃねぇよ。……昔の男だ」
「昔? 今じゃなくて?」
予想外の答えに、俺は疑いの目で天音を見た。
それは本当か?
「今のセフレは……みんな優しいよ」
天音のその言葉に、みんなって何人? と思わず聞きそうになった。
天音に何人セフレがいようが俺には関係ないだろ。何を聞こうとしてんだよ。
今まで、相手にセフレが何人いるのかなんて気にも留めたことがなかったのに、なぜか天音のことは気になって仕方がなかった。
それに、ほかにも気になる。みんな優しいと天音は言ったが、ちょっとおかしくないか? じゃあ相手がイッたら終わりだと思ったのはなぜだ?
乱暴に抱かれた記憶のせいで、優しいと思う基準が低いのかもしれない。絶対に自分だけイッて満足してるセフレがいるはずだ。
まぁでも、天音が今のセフレに乱暴にだけはされてないようでよかった。
「……そっか。昔の奴だったか。今でもまだ震えるくらいだから、もうトラウマになってんだな……。誰も好きにならないってのも、そこから来てんの?」
どんな抱かれ方されたらトラウマにまでなるんだ。
そんな奴、過去に飛んでいって殴ってやりたいな。
「なんか訳ありかなって思ったけど……そういうことか。トラウマ持ちで、なんでセフレなんて作るんだ? 抱かれるたびにしんどいだろ……。お前、泣いてたじゃん」
なんでわざわざつらい思いをするんだよ。
「天音……なんか無理して抱かれてねぇか?」
「……違う」
「でもさ……」
「俺、性欲が強いんだ」
「……は?」
天音、いまなんて言った?
性欲が強い?
「だからトラウマがあっても抱かれたいんだ」
「……いや、そんなの一人でやれば……」
「一人でイけたらこんなことしてねぇよ。イけねぇんだから仕方ねぇじゃん」
「あー……なるほど……?」
トラウマでつらいのに性欲が強い……?
そんなことあるのか?
……あるかもしれないな。
「もういいだろ。早くシャワー浴びてこいよ」
「……ああ、うん。……じゃあ、行ってくる」
性欲が強い……。
それなら、これからも天音を抱いていいかな。
もっと死ぬほど優しく抱いて、俺がトラウマなんて忘れさせてやりたい。
俺を笑顔にして、さらに心を取り戻してくれた天音を、今度は俺が助けてやりたい。
やっぱり天音も俺と同じように闇を持っていた。
たぶんそのつらい過去のせいで、天音の感情は抜け落ちたんだろう。
バーで一瞬見せたあの日だまりの笑顔が、きっと本当の天音なんだ。
「……おい?」
いつまでも腰を上げない俺に、天音が怪訝そうな顔を見せた。
「天音」
「……なに」
「じゃあ、これからは俺も、お前のセフレってことでいいんだな?」
「……うん、よろしく」
もう話は終わり、そう言いたそうに背を向けて天音が答える。
「ん、わかった。ずっと優しく抱いてやるから。……克服できるといいな」
「……別にどうでもいい」
「怖いなんて気持ち、無いほうがいいだろ? 大丈夫。ちゃんと克服できるよ。そう信じてろ」
優しく天音の頭を撫で、布団をかけてやってから、俺はシャワーへと向かった。
よかった。これからも天音に会えるんだな。
そう思ったとき、ふわっと胸があたたかくなった。天音の笑顔を見たときに感じた、あのあたたかさ。
天音に会える、ただそれだけで。
ほんと俺、どうしちゃったんだよ。
自分の変化が嬉しくて、自然と笑みがこぼれた。
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