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17 明日また、天音に会える

 ヒデは呆れた顔をしながらもまんざらじゃなさそうだし、文哉はあしらわれてもへっちゃらな顔でデレデレしてる。 「冬磨、うらやましいんだろ」 「……え」  マスターに言い当てられて固まった。  本気でうらやましかった。俺だって、それが可能なら天音に猛アタックすんのに……。 「やっぱ本気なんじゃん」 「……違うって」 「ほんと素直じゃねぇな。ったく」 「だから……本気になれねぇんだって……」  ずっと冷めた目をして俺には興味もない天音に、恋人になろうよ、なんて言ったらドン引きだろ。俺がそうだったんだ。天音もきっとそうだ。だって天音は今までの俺にそっくりだ。そんなことをすれば、間違いなく俺は簡単に切られる。 「冬磨、その週二の話だけどさ」  文哉がヒデの肩を組みながら俺に言った。 「本当に、切られそうなのか?」 「……たぶん」 「本っ当に? ほんっとぉーに?」 「……わかんねぇよ」  そんなのわかれば苦労しない。  ヒデが悟った顔で俺を見て、やれやれというようにため息をつく。 「最悪、呆れられるだけじゃね?」 「……そう、思うか?」 「思う。ちょっと呆れられるだけならさ、週二会えるほうが幸せじゃね?」  たしかにそうかも……。 「この日空いてるー? って聞くくらい大丈夫だろ。聞いてみろよ」  たしかに……そうかも。 「じゃあ……聞いてみる、かな」 「お、よし。聞いてみろ」  文哉がじっと俺を見てくる。 「……え、今?」 「今だよ。どうせ明日会いてぇんだろ?」  明日は金曜日。何度も誘いたくて誘えなかった金曜日だ。 「……まぁ、そうだけど」 「金曜だぞ? 最悪もう他に取られてるかもな?」 「……だよな。じゃあもう遅いだろ」 「まだ間に合うかもしんねぇじゃんっ。早く早くっ」 「冬磨。今やれば、このあと美味しい酒が待ってるかもよ? そんで明日も幸せだな」  とヒデがニッと笑って、文哉が「ほらほら」と俺を急かす。 「……わかったよ」  俺はスマホを取り出し深呼吸をした。  やべぇ……緊張する。  アプリは開いたが、文字が打てない。  マジで俺チキンすぎる……。 「俺が打っちゃるか?」  ニヤニヤ顔の文哉に、俺は無言で背を向けてカウンターに肘をついた。  ……そうだ。天音は性欲が強いんだから意外となんとも思わないかもな。そうだよ、きっとそうだろ。  そう考えたら踏ん切りがついた。 『明日は空いてる?』  打ち込んだあとは勢いで送信を押した。 「おお、やったじゃんっ」  後ろから覗き込んでた文哉が声を上げた。 「声でかい」 「あ、悪ぃ悪ぃ」  送ったメッセージに既読がつく。  天音の反応が怖い。引かれるか……それとも普通の反応か……。手汗がやばい……。  ブブッとスマホが震えて返事が届いた。 『空いてる』  スマホに表示された文字を見て、一気に身体の力が抜けた。  ずっと誘えなかった金曜日に天音に会える。明日また、天音に会えるのか……そう思ったら、だらしなく頬がゆるんで仕方なかった。  天音の気が変わらないうちにと、すぐに『じゃ、明日な』と送った。 「おお! よかったじゃん! ってかマジ素っ気ないなー」 「……素っ気ねぇけど……すげぇ可愛いんだよ」  ゆるんだ頬を隠すこともできず、スマホから目を離せないまま、俺は文哉に小さく返した。 「……ほえー。これ誰? 冬磨? え、冬磨なの? マジで?」  文哉のその物言いに顔を上げると、まるで珍しいものを見るような目で俺をジロジロと見てくる。おい、と文句をつけようとしたとき、ヒデが文哉の肩をたたいた。 「文哉。もう行こう」 「お、そうだった。行こうぜ」 「冬磨、よかったな。お幸せに。じゃあな」  とヒデは手を振りながら背を向けた。  お幸せにってなんだよ、と思いながらも、足を踏み出したヒデに慌てて「おう、サンキュ」と伝える。  急ぎ足で出口に向かうヒデのあとを「待てってヒデっ」と文哉も慌てて追いかけて行った。 「……そんな早くホテルに行きたかったのかな」  と首をかしげて振り返ると、マスターがじっと俺の顔を見てつぶやいた。 「……さすがになぁ」 「ん?」    なんだ、さすがにって。 「そのデレデレを見せられたら、さすがにショックだったんじゃねぇの?」 「ショックってなんで? てかデレデレってなんだよ」  俺そんな締まりのない顔してる? 「ヒデはお前のこと、弟みたいに見てると思ってたけどさ。さすがにショック受けるくらいには気があったんじゃねぇの?」 「……ええぇ。ないだろ? そんなのヒデから感じたことねぇし」 「俺もないけどさ。まぁ、ショックだったのかもなって話。わかんねぇけどさ。早くホテル行きたかっただけかもな」 「そうそう。そうだって。俺らがこんな話してるって知ったら絶対『はぁ?』って言われるって」  たしかにそうだな、とマスターが肩をすくめた。  天音だけにしろって言ったのはヒデだ。そんなわけねぇよな。マスターの考えすぎだろ。  

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