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43 やっと言葉にできる気持ち
天音の手を引いて、俺はホテルに向かった。
普通にバーで飲んでるヒデと会って話をしたなら、出禁は天音だけだったとすでにバレてるだろう。俺がもう天音だけだったとバレてるはずだ。
繋いだ手をぎゅっと握り直す。
天音は手をほどこうとはしなかった。
黙って俺のあとを付いてくる。
天音の顔を見たらすぐにでも抱きしめてキスをしたくなりそうで、俺は必死で我慢した。早く、早くホテルに行こう。
もう俺の気持ちもバレてるだろうし、きっと天音はもう演技なんてしないはず。
どんな反応を見せてくれるのか楽しみで心臓が高鳴った。
早く天音を抱きしめたい。抱きしめて、今まで言えなかった分、好きだといっぱい伝えたい。
でも、その前にちゃんと謝らなきゃな。ひどい抱き方をしたことをもう一度ちゃんと謝って許してもらいたい。
ホテルの部屋のドアを開け天音の手を引いた。
やっと着いた。いつものホテルなのにすごく遠く感じた。
「天音」
振り返って天音を抱きしめようとしたとき、天音の強気な口調が耳に届く。
「……なに。ホテルまで来たってことは、俺のこと切るのやめんの?」
「え?」
驚いて目を瞬いた。
あれ? まだ演技続くのか?
どういうことだ? まさか……演技ってのが……嘘?
……いや、まさかな。敦司の話は嘘には聞こえなかった。
「勝手に勘違いして切っておいて、ちょっと勝手じゃね? ま、俺は別にどっちでもいいけど」
まだ演技を続ける天音が可愛すぎて、思わず笑みが漏れた。
「それまだ続けんの?」
てっきり、もう見ることができないと思っていた天音の無表情がたまらなく可愛い。
「あれでもまだ気づいてないんだ」
それもまた天音らしいなと思うとただただ可愛くて、また笑いが漏れる。
敦司の話が嘘じゃないとすれば、俺が好きだから、俺のそばに戻りたいから、だからまだ必死で演技をしてるんだ。
そう思ったら死ぬほど可愛くて嬉しくて、幸せがあふれて胸いっぱいになった。
「ん、わかった。それ、名残惜しいからもうちょっとだけ続けよっか。俺のことは少しずつ教えるな?」
本当はちょっとだけ、無表情で強気な天音が名残惜しい気持ちもあったんだ。
日だまりの笑顔はもちろん見たいし、本当の可愛い天音を抱きしめたい。
でも、無表情の天音はもう見納めだろうと思うと、もう少しだけ見ていたい。
ただ、今までと同じようには見ることができなかった。演技だとわかると、いじらしくてたまらなくて、ますます愛おしさがあふれた。
「天音……」
頬にキスをして天音を抱きしめた。
「天音ごめん。この前……俺、ひどい抱き方して……」
何度謝っても謝りきれない。それくらい俺はあの日、ひどくしたと思う。
天音は他の誰にも抱かれていなかったのに、存在しないセフレに嫉妬して乱暴に抱いた。できるなら、あの日の夜をやり直したかった。
「は……だから。それもういいって。なんもひどくねぇし。しつこい」
言葉遣いはいつも通りなのに、天音は柔らかい声で俺を慰めるように優しく言葉をつむぐ。ほんと、優しすぎるだろ……。
「天音……そんな簡単に許すなよ」
「……意味わかんねぇ。ほんとしつこい。うざい」
「天音……ありがとな」
「だから意味わかんねぇって」
「天音……」
愛おしくて心が震える。好きだよ、天音。
ぎゅっと強く抱きしめて腕の中に天音を閉じ込めた。
どう伝えれば俺の気持ちがちゃんと天音に届くだろうか。
今までの自分を考えると簡単じゃないだろう。直球で伝えてもダメな気がするな……。
そんなことを考え込んでいると、俺の胸の中で天音がボソッとつぶやいた。
「シャワー……入る」
俺の身体をグッと押して離れようとする天音を、俺は行かせまいとさらに強く抱きしめた。
「冬磨……?」
「シャワーなんていらないだろ」
「……は?」
今日は仕事が休みだったのか、天音からはめずらしく風呂上がりのいい香りがした。それなら、もうシャワーに入る必要ないだろ。
俺は天音の身体を抱き上げた。
「は、ちょ、冬磨っ?」
ベッドに向かって歩き出すと、慌てたように天音の腕が首に巻き付きぎゅっとしがみついてくる。
思わず足を止めて天音を見ると、混乱を必死で隠すように無表情を維持してる。
「ふはっ。かわい……」
いつも通り無表情なのに、今日はその裏側がなぜか見えてくる。
演技だと分かって見ているからか?
それとも、演技できないほど動揺してる?
ほんと、マジで可愛いんだけどどうするか。
ゆるみっぱなしの顔を隠しきれない。いや、もう何も隠す必要ないのか。
天音をゆっくりとベッドに寝かせ、そっと覆いかぶさった。
「天音……」
頭を優しくそっと撫でると、天音がふるっと震えた。いつもこれが本当に可愛くてたまらない。
頬にキスをして天音を見つめ、そしてまぶた、鼻、額にもキスをする。
天音の名を呼びながら、天音の瞳を見つめながら、顔中にいくつもキスを落とした。
「……んっ、とう、ま……」
いくつもキスを繰り返して天音の首元に顔をうずめ、いつものホワイトムスクの香りに安心した。
「……天音の匂いだ」
どうして今こんなに安心したのかと不思議に感じて思い出した。泥酔したあの日、天音からいつもと違う香りがしたんだ。そんなことは初めてだったから頭が沸騰した。セフレの家から来たと分かっていても怒りがおさまらなかった。
でも、天音にセフレはいなかった。
天音は俺だけだったんだ。俺だけ……。
「……はぁ……だめだ」
「え……?」
「もう俺……胸がいっぱいすぎる。やばい……だめだ……」
幸せすぎて頭がおかしくなりそうだ。
天音が俺を好きだということも、天音を抱いていたのが俺だけだったということも、俺のそばにいるために今も必死で無表情を装っているということも、何もかもが幸せすぎて今にも泣いてしまいそうだった。
天音が愛おしすぎて胸が苦しい。
ゆっくりと顔を上げ、天音を優しく見つめた。
「ずっと言いたくて……言えなかったこと、言ってもいいか?」
「……なに……?」
「天音……」
俺の中であふれる熱い感情、言葉がもう口からこぼれ出そうなほどに胸が高鳴る。
頭を撫でながら頬に優しくキスを落とし、ずっと言えずに我慢してきた気持ちをゆっくりと言葉にした。
「好きだよ、天音」
伝えた瞬間に抑えていた気持ちが爆発した。
俺はもう、好きなんて言葉じゃ言い表せないくらいに天音を愛してる。
一瞬目を見開いた天音からわずかに動揺を感じとったけれど、それでもまだ天音は演技を続けていた。
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天音編と被るシーンは書き続けるとキリがないため、二人が無事両想いなった時点で終了とします。最後は被らないシーンで終わりにする予定ですꕤ︎︎
どうか最後までお楽しみいただけますようにꕤ︎︎
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