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第1話
成田 壮五 、二十九歳。彼氏がいる。
「ふぁ〜……。壮ちゃん、今日俺、バイト行ってくんね。帰るのは……多分、六時くらい。」
「わかった。俺はいつも通り七時前には帰れると思う。」
「うん。お仕事頑張れ〜」
「……お前もな」
寝起きのポヤポヤした声でそう伝えてくるのは、壮五の彼氏である。
彼は二十五歳、フリーターの野崎 結心 。
二人は学生時代、先輩後輩の関係だった──などではなく、たまたま居酒屋で出会った。
【以下、回想】
二年前のその日、壮五は会社の飲み会に連れられ、悪ノリで酒をたらふく飲まされた。
さすがに吐き気が酷くて、他の人たちには先に店を出てもらって壮五は一人トイレにダッシュ。
何とか吐こうとしたけれど、「おぇ」と汚い声と涙が出るばかりで他は何も出ない。
そんな時コンコンとドアをノックされる。
「はい゛……」と返事をした壮五に聞こえてきたのは、少し眠たそうな声。
「あの〜、大丈夫? 水いります? 俺貰ってくるけど」
「……ぅ、大丈夫……」
壮五は長時間トイレにいるのはいかがなものかと思い、外に出ようとドアを開けた。
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