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第2話

するとそこに立っていたのは肩に着くほど長い黒髪の男性で。 「え、吐けてないんじゃないの?」 「ぁー……出なくて」 「でも出さなきゃしんどいでしょ。手伝ったげる」 「え?」 壮五は見ず知らずの男にトイレに戻るように言われ、一緒に中に入ると便器に顔を近づけるように促されてそうした。 すると突然、無遠慮に男の指が喉奥を突く。 途端、便器の中に全部吐き出せた。 背中を撫でるぬるい温度をした手。 「おー。ナイスリバース」 「……」 男はそう言ってトイレットペーパーを取ると、壮五の汚れた口元をそっと拭く。 ジャーとトイレの水を流し、二人で手を洗っていた時、またコンコンとドアがノックされた。 「おーい、結心、大丈夫?」 「あ、うん。大丈夫」 外から聞こえてきたのは明るい女性の声。 男がドアを開けると、個室のトイレに男だけでなく壮五も入っていたのに気づいた女性は、表情を変えて男にバッグで殴りかかった。 「結心、お前!! 遂に男にまで手出したのかっ!」 「えぇ、誤解誤解。お兄さんが体調悪そうにしてたから介抱してただけ」 男と女の言い合いに、壮五はギョッとして、何とか誤解を解こうとしたのだが。 「落ち着いてってアミちゃん。冤罪だよ〜」 「〜っ!! 私は!! マコだ!!」 「……やべ」 男は女性の名前を間違えたらしい。 女性は更にヒートアップし、男に暴言を吐きまくるとお金を叩きつけて「二度と会わないから!」とお店を出ていった。

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