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150年以上続く小野河製薬会社。
百年もの間に、数々の新薬を開発し、多数の人々を救い、その確かな信頼と実績で現代まで続いてきた。
その小野河家の長男である俊我は、先祖代々してきた偉大さと現代表取締役社長である父の後ろ姿を見てきて、一時は背いたものの、高校卒業後の進路を考える際、思い直し、ひとまずは父の信頼を取り戻すため、薬学部で懸命に勉学を打ち込んでいた。
その励む姿と跡継ぎとして誠意を見せようとしていることが伝わったようで、少しずつ関係が修正し、大学の方も慣れ始め、良い兆しに向きかけてきた頃。
不祥事が起こった。
抑制剤に関する治験を行なっていた際に提出したデータに、明らかにおかしい結果が記載されていたのだ。
データ改竄。
何気ない日常であったはずなのに、深刻そうな顔をし、ただその一言を父の口から発せられた時には、頭から水を被ったかのように全身から血が引いていった。
「どうして、なんだよ⋯⋯」
「私に通してからのはずだったが、今回の新薬の話した時には、とっくに手遅れだった⋯⋯」
今回のように治験を行ない、結果の出なかった効果が"ある"ことにされたとする。仮にその薬が承認され、世に出回り、必要とする患者が服用した時、改善されるどころか、深刻な副作用が出てしまう可能性もある。
「内部の者が調査委員会に告発したという報告を受けるまで何故、気づかなかったのか⋯⋯」
父親が頭を抱えた。
無理もない。今回の件は遅かれ早かれ世間に公表しなければならない。その際に、悪い印象が持たれ、今まで小野河製薬会社で開発した薬でさえも影響が出てしまう。
そうなると、また信頼されるのも難しくなってくる。
「とにかく、今回の開発に関わった者達と共に詳しく状況整理をしなければならない。俊我、今のお前では手に余る話だ。学生として、これからも変わらずに勉学に励みなさい」
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