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. 「兄ちゃん! ビールのおかわり三つな!」 「はい!」 「兄ちゃん、こっちの注文を頼むよ!」 「後で伺います!」 あちこちの酒の席から盛り上がっている話し声の中から、注文のために呼ぶ声が混ざる。 それを必死になって聞き取っていた。 ようやく仕事にありつけたところは居酒屋だった。 友人が紹介してくれるまでそのような場所に行ったことがなく、想像できなかったが、まさかこんなにも忙しいとは。 人と関わるのが好きなあの友人らしいとも、この忙しさのおかげで愛賀に対する罪悪感が紛れるからいい。 聞き取った注文を厨房担当に伝えようと足早に向かう。 「てめぇみたいなヤツがこんな仕事をしてんじゃねぇ!」 喧騒を一瞬にして静まる怒声。 それに混じるように叩きつけられ割れるビールグラスと女性の小さな悲鳴が聞こえた。 急いで振り返った先に小太りの五十代ぐらいの男が、店員である俊我と同年代の女性のことを睨みつけていた。 「⋯⋯何あれ」 「⋯⋯酔っ払ったおっさんの絡みか?」 周りの客がヒソヒソと話している内容で、確かに一理あると思った。 だが、肩まで伸ばした髪から覗く、見覚えのある首輪にもしかしたらとも思った。 「てめぇみたいな薄汚ぇヤツから、ビールを受け取らなきゃなんねーんだよ! ここはいつ底辺な風俗になりやがったんだ!」 「⋯⋯ただの居酒屋ですが」 「口答えしてんな! このクソオメガが!」 オメガ。 やはりそうだ。 同時に、殺意にも似た怒りが一気に湧き上がる。 聞き捨てならない罵倒を荒らげ、投げつけようとする太い手首を掴んだ。 「な⋯⋯んだ」 急な第三者が現れたことにより、脳の処理が追いついてないようだ。間抜けな面を見せてくるのを、目つきを鋭くさせ、見返した。

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