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「──あんたももう必要ないんだから、勝手にしたら? ああ、もしかしてあの時の約束、本気で信じているわけ? あんなのただの口実にしか過ぎないわ。それとも、あたしに雇われたいってとこ? あんたのところももうおしまいのようだし、荷物持ちしてくれるのなら雇ってあげる」
「⋯⋯お前は全て、あのオメガのために周りを騙してまでやったんだろう」
愛賀達がいる公園前から離れた歩道で、何の脈絡もなくそう言った。
小馬鹿にしていた表情から一変、虚を突かれたような顔をする。
「⋯⋯あんたには関係ないでしょ。前にもそう言ったはずだけど? 何、酷いことをしてもらいたいわけ?」
「何をしてくれても別に構わない。⋯⋯俺にはもう何も残ってない」
いつもであれば目を鋭くさせ、いかにも挑発していたが、諦めきった目でもしていたのだろう。雅が狼狽えているような反応を見せたのだ。
「らしくもない反応をするんだな」
「あんたがそんな顔をするからでしょ。⋯⋯じゃあ、あんたの所の会社を潰したことも含めて、謝罪をして欲しいっていうの?」
「⋯⋯どういうことだ」
理解ができなかった。その言い方だとまるで華園院側が小野河の会社を倒産するように仕向けたような言い方にしか聞こえない。
怪訝そうな顔をする俊我に、雅は口角を上げた。
「ああ、そう。そうなの。さすがにそこまでは気づかなかったわけね。もうこの際言っておくけど、御月堂の内部の人間がって話、あれ嘘よ。実際はうちの人間が不正行為にするよう仕向けて、あんたの所の人達はほとんど気づいてないようだけど、それをきっかけにありもしない悪い噂を流して、混乱を招き入れたの。単純なやり方だけど、そもそもあんたの所の人間が単純だからなのかしら、いとも簡単に引っかかってくれたわ。それからはドミノ倒しのように⋯⋯面白いものね」
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