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「そうね。ええ、そうね。ようやくあんたみたいな堅物と離れるきっかけが出来て清々するわ。あたしのせいで経営が傾くのを期待してるわ」
そう吐き捨て踵を返す雅と、大河が繋いだ方の腕を左右に振ってきたことで、「この子どもはどうするんだ」と言った。
「そんなの元から御月堂慶を脅すために使う駒だったから、もう必要ないわ」
「⋯⋯そうか。必要ないのか」
大河のことも。⋯⋯自分のことも。
いや、大河はただ純粋に愛してくれる人の元に行けばいい。行った方が何もかも心配がいらない。
きっと金銭面も生活面でも。
そして、脅かされることもない。
ずっと繋いでいた手を離した。
少しでも抵抗してくれるのかと思っていた小さな手が呆気なく離れていった。
この手もこの先繋ぐことはないだろう。
無邪気に笑って、俊我のことを「パパ」と呼び慕っていた愛らしい大河の姿が不意に思い浮かぶ。
大河を見ては愛賀のことを思い出してしまい、罪悪感を抱えていたこともあったが、それでも俊我にとっては充分すぎるささやかな幸せだった。
愛賀と共に暮らしていた時と比べられないぐらいに、愛しい時間だった。
それらも手放すことしか選択肢がない立場である自分は、幸せを手放し、大河に背を向け、引き止めることもない小さな彼を置いて、来た道に去る雅の後を追った。
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