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其の壱・猫又の心(1)

 (壱) 「(しん)、心、おいで」  今日も、その人はボクの名を呼ぶ。 『その人』は、ボクの本当の家族じゃない。  本当の家族からは……捨てられちゃったから……。  捨てられた理由は、ボクの妖力が少ないからだ。  ボク、実は、尻尾がふたつに別れている、猫の妖怪。猫又なんだ。  本来なら、きちんと人間に化けられるのに、頭のてっぺんには耳。尻尾はお尻にあるままだし、人間っぽくない。  何回も何回も、みんなと同じように化けようとしても、結果は同じ。  ついには仲間からのけ者にされ、村を追い出された。  行き場所を失ったボクは仕方なく、人間の姿になって、ぴょこんと飛び出た耳を隠すため、布を頭に被せ、人間が住む下界に降りた。  大分歩いた先の、山の(ふもと)。  足も痛くて、もう歩けなくて、草の陰に縮こまった。  ボクはもうすぐ死ぬんだって、そう思った。  だけど違った。  ひとりぼっちになったボクの前に、白の狩り衣に袖を通した、黒髪の人間が現れたんだ。  名前は(あおい)さん。  とっても凛々しくて、だけど清楚な感じのやさ男。  彼が、ボクを拾ってくれたんだ。  蒼さんは、焼き魚やら、原っぱに生えているツクシなんかの食べ物を目の前に差し出し、「食べなさい」と言ってくれる。  だけど、はじめは、怖くて怖くて……。  だからずっと鋭い牙を見せて威嚇していた。

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