1 / 22
其の壱・猫又の心(1)
(壱)
「心 、心、おいで」
今日も、その人はボクの名を呼ぶ。
『その人』は、ボクの本当の家族じゃない。
本当の家族からは……捨てられちゃったから……。
捨てられた理由は、ボクの妖力が少ないからだ。
ボク、実は、尻尾がふたつに別れている、猫の妖怪。猫又なんだ。
本来なら、きちんと人間に化けられるのに、頭のてっぺんには耳。尻尾はお尻にあるままだし、人間っぽくない。
何回も何回も、みんなと同じように化けようとしても、結果は同じ。
ついには仲間からのけ者にされ、村を追い出された。
行き場所を失ったボクは仕方なく、人間の姿になって、ぴょこんと飛び出た耳を隠すため、布を頭に被せ、人間が住む下界に降りた。
大分歩いた先の、山の麓 。
足も痛くて、もう歩けなくて、草の陰に縮こまった。
ボクはもうすぐ死ぬんだって、そう思った。
だけど違った。
ひとりぼっちになったボクの前に、白の狩り衣に袖を通した、黒髪の人間が現れたんだ。
名前は蒼 さん。
とっても凛々しくて、だけど清楚な感じのやさ男。
彼が、ボクを拾ってくれたんだ。
蒼さんは、焼き魚やら、原っぱに生えているツクシなんかの食べ物を目の前に差し出し、「食べなさい」と言ってくれる。
だけど、はじめは、怖くて怖くて……。
だからずっと鋭い牙を見せて威嚇していた。
ともだちにシェアしよう!