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其の弐・大和の国より異形なものあらはる。(6)

「……何か隠し事がございますね?」  蒼が問えば、僧侶はひとつ唸る。言いにくいことでもあるようだ。  しばらくの後、沈黙が周囲を包み込むものの、僧侶は決意したように、重い口を開いた。 「やはり、隠せませぬか」  そう言うと、僧侶は懐から教典を取り出した。彼が差し出したのは、生前、玄奘法師が書き上げたひとつ、般若心経だ。  一見すると何ら変わりのない般若心経ではあるものの、ある部分、ところどころにひとつの文字が抜け落ちていた。 「こちらは?」  蒼が訊ねると、僧侶は頷いた。 「見てのとおりでございますれば。玄奘法師から授かりました教典の、『空』という文字が、忽然と消えてしまったのでございます。しかし、この法隆寺は帝より仰せつかりました重要な地。ましてや、この教典は玄奘法師が観世音菩薩より承りしもの。たれにも相談することができず、どうしたものかと(きゅう)しておりました」

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