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其の弐・大和の国より異形なものあらはる。(7)
「なるほど、そういうことですか」
蒼は頷いた後、何やら小さく唇を動かし、息を吹きかけた。
心が教典を覗き込めば、そこにはすっかり元通りになった、『般若心経』があった。
「印を結びなおしましたゆえ、これでおかしな出来事は起こりますまい」
そう言うと、蒼は腰を上げ、猫又の心と共に法隆寺を後にした。
「ねぇ、蒼。どういうこと?」
牛車の中、心が訊ねると、蒼は微笑を浮かべ、華奢な身体を引き寄せた。
「空は、般若心経の要。あって、なきがごとし。すべては虚ろであるという意味だ。けれどね、玄奘三蔵の法力は本物だ。彼の力は空になることはできず、この世を彷徨ってしまったんだ。形はなく、けれども声はする。町での不可解な出来事もすべて、あの教典の空の仕業だろう。なるほど、それならば大和の国を中心にして異な事が起こるのも頷ける」
「じゃあ、空っていう文字も虚ろになっちゃったの? でもどうして虚ろになっちゃったの?」
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