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其の四・こいごころ。(4)

 いつもとは違う蒼の姿にびっくりしてしまう。  ボクはたくさんの、『どうして』が頭の中に浮かんでいて、ただ呆然としていると、蒼の薄い唇が開いた。 「心、なぜ逃げる。おれの力が怖くなったのか?」  違う。怖くない。  ふるふると首を振れば、蒼は満面の笑みを浮かべた。  ……ああ、なんて綺麗なんだろう。  あまりにも綺麗だから、ついつい見惚れてしまう。  そこで気がついたのは、ボクが蒼を振り切る時につけた傷だった。  腕からは真っ赤な血が流れている。  どんな時でも掠り傷だってついたことのない蒼の体に傷をつけてしまった。  ごめんなさい。  ごめんなさい。  謝ってすむ問題じゃないのはわかってる。  大好きな人に傷つけてしまったんだから……。  恩を仇で返すなんて……本当にボクは愚か者だ。  父さんや母さんがボクを捨てた理由がよくわかる。 (ごめんなさい)  心の中で深く謝りながら蒼の腕をペロペロ傷舐めると、ボクの体がふいに浮いた。  蒼の腕に持ち上げられたんだ。 「心、帰ろう」 『……ッツ!!』  だめ。  ボクは帰れない。  また首を振って蒼から逃げようと体を捩る。  だけど蒼は離してくれないんだ。  いつもボクの好きなようにさせてくれるのに、どうして今は自由にさせてくれないのかな。  もう蒼を傷つけたくない。引っ掻いたりしたくない。

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