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其の四・こいごころ。(3)
「心、どこへ行くんだ!」
後ろでボクを呼ぶ声が聞こえる。
だけど振り向いちゃダメだ。
蒼に甘えちゃいけない。
だって、蒼はとても強い霊力を持った陰陽師だ。
ボクみたいな半端者が蒼の式神じゃいけないんだ。
もっともっと強い式神を仲間にしなきゃいけないのに、ボクなんかぜんぜん相応しくない。
走って。
走って。
いったいどれくらい走ったかな。
ちょっぴり小高い丘の上で、ボクはひとり、まん丸なお月様の下にいた。
『にゃあ~』
『にゃあ~』
泣いてしまうのは好きな人の傍に居られないから。
ポロポロ涙だって零れてくる。
みんなボクからそっぽをむいたけれど、蒼だけは違った。
蒼だけは、ボクが何もできなくても傍にいてくれた。
嬉しくて、楽しくて……。
だから蒼に恩返しをしなきゃって思っていたんだ。
優しくしてくれた恩返しは、ボクがいなくなること。
それが、蒼にとって一番なんだ。
だけどボクは……。
(苦しいよ)
『にゃあ~』
(悲しいよ)
『にゃあ~』
「……見つけた」
突然声がして振り返ると、そこには――。
『!』
狩衣に身を包んだ蒼がいたんだ。
なんで、なんで蒼はここにいるの?
それに、蒼はどうしたんだろう。
どんなに怖い鬼と居合わせても顔色ひとつ変えなくて、涼しい顔をしていたのに、どうしてそんなに息を切らしているの?
こめかみに汗が流れている。
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