20 / 22

其の四・こいごころ。(2)

 でも、こんなの気持ち悪いよね。  蒼のことを考えたら、こういうふうになるのって。  だってボクも蒼も男の子なんだ。  同じ性別で、しかも種族が違うのに、好きになっちゃうのはおかしい。  いけないことだ。 「心?」  ムズムズ、治まらない。  涙だって止まらない。 「どこか痛いのか?」  痛い。蒼を想う胸が痛いよ。  苦しいよ。  でも、こんなこと言えない。  言っちゃったら最後、もう一緒にお出かけもできなくなる。  でも、迷惑だよね。  ボクなんかと一緒にいちゃいけないよね。  よりによって蒼を好きになるなんて。 「ごめ、なさい」 「心? 何を謝って……ああ、これか」  蒼は何を思ったんだろう。  後ろから腕が伸びてきて、ムズムズしているボクに触れてきたんだ。 「やだっ!」  ボクは慌てた。  だってすごく優しい手つきで触ってきたから。  おしっこする場所だから汚いのに。  あまりにも慌てたから、牙を出しちゃったんだ。  蒼の綺麗な腕を噛んでしまった。  赤い血が流れていく。  ……違う。傷つけるつもりなんてなかった。  ボクはただ、蒼にビックリして――。 「心、すまない。驚かせてしまったか」  大好きな人を傷付けてしまった。  ボクが狼狽えていると、蒼が申し訳なさそうに謝ってきた。 「……っつ!」  蒼は優しい。  怒らない。  ボクがどんなに邪魔者でも、蒼はいつもずっと一緒にいてくれる。  だから、だから……甘えていちゃいけないんだ。  そう、思った。  だからボクは猫又の姿に戻ると夜具から抜け出した。  座敷から出て、広いお庭を突っ切って走る。

ともだちにシェアしよう!