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其の四・こいごころ。(1)

 (四)  ボクには好きな人がいる。  その人は、陰陽師で、とても強いの。  優しくて、みんなに頼りにされてる。  ボクが尊敬する人。  その人は今、ボクと同じお布団にいて、眠っている。  今夜は満月だ。  障子の間から見えるお月様の光はいつもよりとても明るい。  蒼の綺麗な寝顔が見られる。  薄いお口はいつも優しい笑みを浮かべてる。  キス、したい。  そう思った時だ。  ボクの身体が急に熱くなったんだ。  なんで? どうして?  足の間にあるボクが大きく膨れてる。  ムズムズするの。  今までにも蒼といるとこういうことはあった。だけど今日のはいつもよりずっとずっとヘンだ。  ムズムズ、治まらないよ。 「心、どうかしたのか?」  ああ、どうしよう。傍でモゾモゾしてるから起こしちゃったみたい。  蒼にヘンな奴だって思われたかな。  蒼にまで捨てられちゃったら、ボク。どうしたらいいんだろう。  蒼はとても優しい。それに誰からも頼られる陰陽使いだ。  わかってる。ボクなんかじゃ不釣り合いだって。  一緒にいたって何の役にも立たない。  だってボクは猫又だけど、変化の術すらも上手くできない半端者だ。  嫌われる。  そう思ったら、涙が止まらない。  胸、痛いよ。 「なん、でもないの。ホントだよ。おやすみなさい」  ボクは蒼から逃げるようにしてそっぽを向いた。  蒼にだけは嫌われたくない。  ボクにとって、蒼が特別なんだ。  蒼だけだった。  お父さんやお母さんさえも捨てたボクを拾ってくれたのは……。

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