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第20話 思ってることはちゃんと話さなね
誕生日ドタキャン事件があってからしばらく
俺と勇はギクシャクしている、と思う
顔を合わせてもよそよそしいし、勇は最近猫田にべったりで、俺は橋間に絡んでいてお互いがお互いを意図的に避けているそんな感じだ
いや、まぁ、橋間がいるから別に寂しくはない。
今日だってこうやって一緒に飯についてきてくれてるし!寂しくなんてないんだからな!!
「………」
「………」
「…………はぁ」
「なっなななななんで、ため息をつくんだ?!」
「いや、ため息の一つもつきたなりますわ。
しょーもない痴話喧嘩にいつまで後輩たちを巻き込むつもりなんですの?」
「なっ?!ち、痴話喧嘩なんかじゃ」
「はぁぁぁ、痴話喧嘩やろ、どう考えても。
約束ドタキャンされて気まずぅなってるとか。」
「うぐ…で、でも、俺たちはただの友達で、男同士だし。痴話喧嘩とかするような関係じゃ…
それに勇は猫田のことが…」
「はぁぁぁぁぁあああ……」
「なっなんでそんなでかいため息つくんだ?!」
「こんの鈍チンがぁ〜男同士とか言い出したらにゃーちゃんも男やし。
誰がどう見てもくまさんはまぶさんのこと好きやろ!んで、その逆も然りなんやろ?」
「俺は、そう、だけど。あいつは、違うだろ…」
そうなのだ。この一件があったおかげで自分の気持ちに気づかされた。最初は友達に約束をドタキャンされてショックを受けているんだろうな。ギクシャクして避けてしまっているのも友達を取られたと思って拗ねているんだ程度の認識だったのだが
ある時、勇と猫田が寝ているという噂を耳にしてどうしようもないくらい胸が苦しくなった。それと同時になんで俺じゃないんだという嫉妬のようなドロドロとした感情が自分の中でずっと渦巻いていたことに気がついた。
俺は、勇が好きだ。ただの友達なんかじゃ足りない、友達よりももっと深い関係になりたいと思っていたらしい…
「いーや、違わんね!くまさんはまぶさんのこと好きやろ
まぁ?あっちもあっちでまぶさんが自分のことなんて眼中にないと思ってるやろから…
にゃーちゃんは都合のいい相手になっとるだけや。あの子もほんまは好きな人おるけど…お互いに傷の舐め合いしとるんやろ。」
「…そう、なのか?」
「さっきからそうやって言うとるやろ。」
ほんま鈍ちんやわ。2人とも。と言ってまたため息をつかれた
橋間曰く、俺たち2人は勝手にお互いの気持ちを決めつけて、勝手に諦めて、すれ違っている状態だとのこと。
…気持ちを決めつけてる、か。確かに、直接聞いたわけでもないが
「もし、そうじゃなかったら…」
「んがぁぁ!!なんでそんな弱気やねん!いつもの図々しい感じはどこに行ったんや!」
「なっ?!図々しい、のか?!」
「そらせやろ。今日やって、わいの予定なんか聞かずに着いてきよったし。せっかくにーちゃんとデートやったのに」
「え?!?!そうだったのか?!?!予定があったとは知らず、悪い!!!」
まさかのデートだったとは、そんな大事な予定があったのに俺という馬鹿は…
「お待たせしました。こちらジンジャーハイとブランデーのロックです。
お客様?あんまり大声出すと他の方に迷惑ですので少しトーン落としてくださいね」
店員さんがテーブルに注文していた飲み物を運んできてくれた
「あっす、すみませ「にーちゃーん!!ごめんなぁ!この声でか先輩が喧しくしてもうてー!」
「お前のがうるさい。黙れ。あと、抱きつこうとすんな」
橋間が店員さんに飛びつこうとしているのを片手で制止している。
え、ていうか、今橋間、店員さんに、にーちゃんって言ったか?
「え?!にーちゃん?!」
「んん゛っ」
「あっす、すみません…」
咳払いをされてしまった、、
そりゃ、知らない人間からにーちゃんなんて言われたくはないもんな。
申し訳ないことをした
「いえいえ、初めまして、弟がいつもお世話になってます。兄の橋間 荷稲 です。」
「あ、えっと、馬渕香澄です。弟さんにはいつもご迷惑おかけしてます。」
「迷惑かけてるとおもてるんやったら気ぃつけてもらいたいわ〜」
「調子のるな」
「あでっ?!ちょっとにーちゃん殴らんでもええやん?!」
やれやれといった感じで手を上げ首を振る橋間弟とそれにゲンコツを落とす橋間兄
なんか、あんまり似てない、ような
弟関西弁なのに兄はそうでもない
それに、顔も…
2人の顔を見比べていると視線に気がついた橋間兄に苦笑いされた
「おれたち似てない、でしょ?」
「あ、いや、えっと」
「なはは〜、どんだけしどろもどろになってるん?まぁ、似てなくて当然なんよ。わいとにーちゃんは別に血は繋がってないからなー。お互い親の再婚相手の連れ子同士やから」
なー?にーちゃーん!といってまた抱きつこうとする
「そう、なのか。」
それなら似てなくて当然なのか
にしても、本当に全然違うな
じーっと見ていたら橋間弟の方から威嚇された
「ちょっと、まぶさんあんまりジロジロにーちゃんのこと見んといて!惚れてもうたら困る!」
「はあ?!おっ前はまた変なことを!あ、えっと馬渕さんすみません…このバカの言うことは気にしないでください。」
「お、おう……」
「わいはバカやないもん!にーちゃんかいらしいからほんまは酒飲みが来る場所でバイトやってしてほしくないのに!」
暴漢に絡まれてエッチなことされたら…わいは、わいは…と震え始める
一方でお兄さんは呆れたようにため息をついた
あ、ため息の仕方似てるな
「うるっさい!!もう黙ってろ!!」
「うへぇ怒られてもうたー」
本当に仲が良いんだな
にしても、距離感が…
「なんか、2人って」
「んー?わいらがどないしたん?」
「いや、兄弟仲良いなって」
「あー、まぁ兄弟といえばそうやけど、違うっちゃ違うからなぁ」
「?????」
「にーちゃんとわい、恋人やねん」
「え????」
頭の処理が追いつかずフリーズしてしまった
そんな俺をみたお兄さんがまたため息をついて
「はぁ、絢兎…突然変なこと言うから、お前の先輩固まったぞ」
「えーー変やないもん。わいとにーちゃんは相思相愛なんやから」
「あーーはいはい。ソウダナー。ソーシソーアイだもんなー」
「ちょっ!!なんなん!その言い方!!ひどない?!気持ちが全然こもってなかった!!」
「うるせー…」
ギャイギャイとお互いに言い合っている2人
目の前で繰り広げられる痴話喧嘩をボケーっと眺めていると
お兄さんが他の店員に呼ばれて厨房の方へ戻って行った
その後ろ姿を見送った橋間がこちらに向き直った
「あんな、まぶさん。
わいらもすんなりこの関係になったわけやないんよ。男同士やし、なにより血は繋がってなくても兄弟やっていう壁はあった。でも、お互いにちゃんと気持ちを話して話して話し合って、今こうなってるねん。
せやから、あんたらもちゃんと腹割って話せな。
すれ違ったままは寂しいやろ」
「橋間………うん。俺、今多分すげー寂しいんだと思う……勇とまた話したい…ちゃんと話して自分の気持ち伝えたい!!」
たとえ、ダメだったとしても。これまでみたいに友達として隣に居させて欲しい…
「そやろそやろ?ちゃーんと話せなあかんで。
と、言うことで……聞こえたかー?浮気もの先輩ー?あんたの想い人の覚悟はできてるみたいやで?はよ、迎えに来てもろて、連れて帰って。
わいとにーちゃんの"バイト中の彼氏観察デート"の邪魔せんといて〜」
『ーー!!ーーーー!!!』
「うっわ、うるさ。耳がキンキンするから叫ばんでほしいわ。
ま、そう言うわけやから、今からくまさんが迎えに来るって」
そう言って通話中になっているスマホの画面をこちらに向けてニコリと笑う
相手は くまさん と出ていた
「おっおおおおおまっ!!」
「なはは〜いつまでも後輩にダル絡みしとるから、天罰や」
息を切らして肩で息をする熊田勇がお店の扉を勢いよく開けるまで
あと少し
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