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talk.7 オカマと彼
むかしむかし、17の竜之介が見つめ続けた彼は、あの頃と同じように静かに本を読んでいた。
―――真名川、病気なんだ。
あの夜、緒方は頭を抱えながら、まるで懺悔するように言った。
会いに行って欲しい―――と緒方に泣きながら頼まれ、江ノ島竜之介はのこのこやって来た訳だが、実際のところ会うにはかなりの抵抗があった。
当然だ。
18年の長い時間で若い恋心は昇華されているとは云え、勝手に子供を産んだ事も、竜之介の外見が様変わりしている事も、真名川の病気の事も、気後れするには充分なラインナップだろう。
しかし、真名川の姿を目にした途端に、今までごちゃごちゃと考えていた事がどこかへすっ飛び、気が付けば竜之介は開け放たれた病室のドアをノックしていた。
「―――はい?」
本から視線を上げた真名川が、不思議そうな顔をしてノックに答える。懐かしさに胸が締め付けられるような気がした。
「こんにちは。入ってもいいかしら?」
「―――えの、しま?」
怪訝そうな真名川の表情が驚きに変わり、ポツリと竜之介の苗字を呟く。
「あら、よく分かったね。久しぶり。真名川くん。」
「何で―――、」
「緒方さんに聞いて来たのよ。千葉も暑いわね。」
竜之介は話ながら病室に入り、広い室内ぐるりと見渡した。リゾートホテル並の個室だ。1日当たりいくらぐらいするのだろうか。
下世話な事を思いつつ、入口近くの棚の上に、見舞いにと持ってきた花束を置いた。
「ここに置いておくわ。」
「ああ、わざわざありがとう。そこの椅子か―――、いや、ソファがいいか。ああ、そうだ。コーヒーしかないんだが、」
真名川はベッドから降りて、こちらへ来ようとしたが、部屋の奥の簡易キッチンの方に引き返した。落ち着きのない様子に思わず笑ってしまう。
―――ああ、まだこんなに、
押し寄せてくる甘ったるい気持ちに、竜之介は目頭が熱く滲んだ。
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