7 / 8

talk.7 オカマと彼

むかしむかし、17の竜之介が見つめ続けた彼は、あの頃と同じように静かに本を読んでいた。 ―――真名川、病気なんだ。 あの夜、緒方は頭を抱えながら、まるで懺悔するように言った。 会いに行って欲しい―――と緒方に泣きながら頼まれ、江ノ島竜之介はのこのこやって来た訳だが、実際のところ会うにはかなりの抵抗があった。 当然だ。 18年の長い時間で若い恋心は昇華されているとは云え、勝手に子供を産んだ事も、竜之介の外見が様変わりしている事も、真名川の病気の事も、気後れするには充分なラインナップだろう。 しかし、真名川の姿を目にした途端に、今までごちゃごちゃと考えていた事がどこかへすっ飛び、気が付けば竜之介は開け放たれた病室のドアをノックしていた。 「―――はい?」 本から視線を上げた真名川が、不思議そうな顔をしてノックに答える。懐かしさに胸が締め付けられるような気がした。 「こんにちは。入ってもいいかしら?」 「―――えの、しま?」 怪訝そうな真名川の表情が驚きに変わり、ポツリと竜之介の苗字を呟く。 「あら、よく分かったね。久しぶり。真名川くん。」 「何で―――、」 「緒方さんに聞いて来たのよ。千葉も暑いわね。」 竜之介は話ながら病室に入り、広い室内ぐるりと見渡した。リゾートホテル並の個室だ。1日当たりいくらぐらいするのだろうか。 下世話な事を思いつつ、入口近くの棚の上に、見舞いにと持ってきた花束を置いた。 「ここに置いておくわ。」 「ああ、わざわざありがとう。そこの椅子か―――、いや、ソファがいいか。ああ、そうだ。コーヒーしかないんだが、」 真名川はベッドから降りて、こちらへ来ようとしたが、部屋の奥の簡易キッチンの方に引き返した。落ち着きのない様子に思わず笑ってしまう。 ―――ああ、まだこんなに、 押し寄せてくる甘ったるい気持ちに、竜之介は目頭が熱く滲んだ。

ともだちにシェアしよう!