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第一話①
「俺、先生のことが好きなんです」
突然の告白でも、非常に真面目だった。
副島一成 は目の前で座る生徒を、無言で見つめ返した。お昼時の休み時間、相談室でだらだらと過ごしていた一成のもとを訪れたのは、先月、吾妻 学園に入学した一年生である。黒い学生服がまだ初々しいその生徒は、一成もよく知っている相手だった。
「どうした、いきなり」
その生徒の担任である一成は、慎重に教え子の様子を探った。この相談室は生徒をサポートするために設置されていて、今年一成は筒井順慶 と共に担当になった。困ったり悩んだりしていたら、迷ってないでぜひいらっしゃいと、いつでも気軽にドアを開けられる雰囲気をつくるようにしているのだが、二人が担当となってからは、開店休業状態が続いている。生徒は基本的にシャイだからと、二人の担当は早々に諦めているが、生徒たちの間では、睨みつける三白眼が怖いと評判の一成と、心の辞書にデリカシーという言葉が欠けていると評判の順慶のペアでは、好きな食べ物でも相談する気が起きないということで一致している。そんな名誉を捧げられていることなどまだ知らない当事者たちの前に現れたのが、入学してから一ヶ月しか経っていない新入生だった。
「何か、あったのか?」
相談がありますと言ったので、そこのソファーに座らせた。恒例の五月病の季節である。きっと学校に慣れない云々の話だと思って、意気込んで話を聞こうとした一成に、好きな人がいるんですと、教え子は堂々と言った。
「誰だ?」
「先生です」
桐枝伝馬 はまっすぐに担任を見つめていた。
「俺、先生のことが好きなんです」
伝馬が相談室のドアを叩いてからこの会話になるまで、五分もかかっていない。
「……」
一成の三白眼が胡乱な目つきになる。聞いた瞬間、正直、もう来たかとうんざりした。男子校に教師とて着任してから、早数年。この手の話は、もうお腹いっぱいなほど見聞きしていた。
「……桐枝」
仕方がないなとため息をつくのも我慢した。一番性に敏感な年頃なのに、周囲に男しかいないのであれば、同じ男に関心が向かうのは当然の帰結だろう。だが、それが本物なのかは当人もわからないに違いない。
「いったい、どうしてそう思うんだ?」
去年も大体今頃、誰かへ同じ質問をした覚えがある。その誰かは、その後確か彼女ができたとか騒いでいたような気がする。
「俺のどこを好きになったんだ?」
それにしてもストレートに告白してきた伝馬に、少しだけ驚いた。一年三組の担当クラスでは、そろそろ新入生たちが自分の個性を出し始めている。その中でも、伝馬は特別に目立つというわけでもなく、かといって地味というわけでもなく、それなら普通かと言われれば、何か首を傾げたくなるような、そんな生徒である。担任の自分がきちんと把握していないからだと一成は憮然となったが、今目の前にいる伝馬はひどく落ち着いていて凛々しく感じた。背は低くはなく、体つきも悪くはない。黒い学生服がとてもよく似合っている。顔立ちも精悍で、頑固で意思が固そうだ。その証拠に、一度も自分から目を逸らしていない。十五歳にしては、根性もありそうだ。
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