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第一話②
「先生を好きになった理由ですか?」
伝馬はにこりともしなかった。
「それは……格好いいから」
「それだけか?」
「それだけじゃ、駄目なんですか?」
少々気分を悪くしたように、声が低くなる。
「感動しない」
一成は馬鹿な映画でも見たように、ばっさりと切る。
「俺を好きになったのなら、感動させろ」
「……」
伝馬の強情そうな眉がびくりと反応する。
怒ったな。一成は胸の中で苦笑いした。いい兆候だ。
「――先生は好きな人がいるんですか?」
「いや」
再び直球を投げてきた伝馬に、仕方なくバントを打つ。
「そんな暇はない」
教師は忙しいんだと、一成はぼやきそうになった。生徒の告白にも付き合わなければならないのだから。
「だったら、俺と交際してくれませんか?お願いします」
伝馬はどこまでもまっすぐだった。
一成はそんな教え子を、面倒そうにちらっと見返した。実際に面倒だった。一年生のクラスの担任を任され、やるべきことがてんこ盛りである。今朝だって、職員室で机が隣にある体育教師松本古矢 から、体力測定のことで色々と言われた。曰く、三組の生徒たちはひ弱ならしい。だから何だと、目が据わった。毎朝ラジオ体操でもさせればいいのかと言ってやった。すると、来月の結婚を前に、幸せムードをはた迷惑にまき散らしている二十代最後の教師は、大真面目に頷いた。一成! お前が先頭に立って生徒たちを引っ張るんだ! 教育に必要なのは、情熱と体力だ!――一成は隣の机ごと、窓から蹴り出そうかと思った。この学校に在学していた時から、うざい先輩だったが、同じ教師として机を並べるようになってからは、さらにパワーアップしてきた。こういう奴が教え子から告白されたらどういう反応を示すだろうと考えたら、少し気分がすっきりした。
「――先生」
硬い声が、現実に引き戻す。
伝馬は声以上に強張った顔をしていた。担任が自分の話を真剣に聞いていないと感じ取ったらしい。
「俺、本気なんですけれど」
「――俺も、ちゃんと聞いているぞ」
少々物騒な空気が匂ってきたので、安心させるように言った。だがその言葉の裏では、どうやってこの面倒極まりない相談に答えを出そうかと考える。大体、入学して一月が経ったばかりなのに、自分の担任へ面と向かって好きだと言える気持ちがわからない。しかも男の自分へ向かって、堂々と。
――若いんだな。
今年で二十七歳になる一成は、まるで中年親父のような感想をもった。若さには叶わないと、十代の頃は目上から何かにつけ言われたが、ようやくその意味がわかる年頃になった。
「俺、本当に先生のことが好きなんです」
伝馬は自分の気持ちをわかってもらうように、もう一度口にする。
「本当に、好きなんです」
「……」
一成は腕を組むと、眉間に皺を寄せて鋭く睨んだ。その雑り気のない真摯な眼差しに、ようやく解決法が決まった。
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