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第二話④

「で、キッカケはそれなんだ」  お昼の休憩時間、天気が良いからと外に出て、校庭の片隅にある大きなイチョウの木の下で弁当を広げている圭は、伝馬の話が終わっても取り立てて感情を揺さぶられることなく問いかける。問いかけられた伝馬はようやく口の中でおにぎりを頬張りながら、首を縦に振る。 「キッカケみたいなのはそうなんだけど、あとで松本先生に教えられたんだ」  喉で呑み込んで、続ける。 「初めての体育の授業で、松本先生に言われたんだ。副島先生は俺が教室に来なかったから、ひどく心配して、昇降口まで探しに行ったんだって。俺に何かあったんじゃないかって」  体育の授業が終わってから、桐枝伝馬君! と元気に呼び止められ、入学式に間に合って良かったね! 君が来ないから一成が心配して教室を飛び出して行っちゃったんだ! その間新入生たちの面倒を僕が見たんだ! だって僕は副担任だから! 情熱と情熱で頑張ったよ! でも君がちゃんと来たから僕は! ……と、独白が永遠に終わらなそうなところを、数学教師の橋爪(はしづめ)理博(りはく)が通りかかって、お前の口はいつも動いているな、よく故障しないな、とネチネチと絡んでくれたので、伝馬は隣で欠伸をしていた勇太を引っ張って教室へ戻った。だが古矢が喋った内容は伝馬の胸に熱く刻まれて、その後の衝動的行動へと繋がっていった。  「ふうん」  圭はお弁当と同様に冷めている。 「伝馬らしいね」  少しだけ呆れているようだ。  しかし伝馬は別段気を悪くもしないでおにぎりを食べる。こういう話になったのは、この間伝馬がおかしかったことを心配した勇太が、どうしたの? どうしたの? と人間の言葉を覚えたオウムのように繰り返し、圭が頃合いを見計らって、よかったら話を聞くけどと外へ誘い出したのだ。伝馬も数日過ぎていくぶん気持ちが落ち着いたので、心配する勇太とどこまでも冷静な圭に正直に話すことにした。 「どこが悪かったか、わからないんだ」  おにぎりの中に入っている梅干しを口に入れて、片手で殴られた頬を撫でる。とっくに痛くはないが、思い出す度にくっそうとムカついてくる。 「そうだね、全部悪かったんじゃないのかな」  圭はクールに言っておかずのウインナーを口に入れる。タコさんウインナーで、切られた足の部分が綺麗に開いている。 「でもこれで伝馬が荒れていた理由がわかった。荒くもなるよ、殴られたらね」  そう言って、先程から昼飯に夢中な勇太に目を向ける。どうしたのーでんまー、心配だよーでんまーとうるさかった勇太は、絶賛炊き込みご飯を食べる世界の住人になっていて、伝馬の告白もあまり耳に入っていない。というか、全然聞いていない。  だがそんな勇太と幼馴染みである伝馬は気にも留めないで、全部悪かったか……と呟く。身も蓋もない言葉でも怒りもしないのは、伝馬の素直な性格のゆえだ。

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