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第二話⑤

 それを見抜いている圭は、全く話に加わる気配のない勇太から仕方なさそうに視線を()がすと、下手に言葉を飾ることなく普通に突っ込む。 「パンチをする先生も悪いけれど、いきなり担当クラスの生徒から告白されたらビックリするよ。伝馬はそういう性格だから、即実行しただけだと思うけれど」 「駄目なのか?」  おにぎりを食べながら元気なく小首を傾げる。何となくだが伝馬もヤバい行動だったと自覚し始めている。 「うーん、ダメだね」  優しい口調ではっきりと言い切ると、圭は苦笑いする。 「本当に伝馬らしいんだけれど。猪突猛進(ちょとつもうしん)は自分もケガをするよ」 「……あ、そうか……」  もう痛みはないのに、殴られた頬がチクリとする。 「まあ、でも黙っていたらいたらで、今度は自分がきついだろうし。仕方ないね」  圭はどこまでも他人事のように喋ると、ちょっとだけ肩を落とした伝馬にひょいと顔を近づける。 「僕は思ったんだけれど。聞く? 伝馬」  弁当の上にお箸をのせると、右手のひとさし指で眼鏡の縁を軽く押し上げる。入学式で知り合ってからまだ三月(みつき)も経っていないが、普段クールな圭がその仕草をするのはとてもノリノリな時だと知っている伝馬は、黙って頷く。 「伝馬の話を聞いて僕は思ったんだけれど、副島先生、手慣れているよね」 「手慣れている?」 「そう、こういう事態に」  わかる? というように眼鏡の奥で目が鋭くなる。 「俺が先生に告白したことか」 「そう、今までもいたんじゃないのかな。というより、いたよね、絶対」  ここは男子校だからと断言する。 「先生がモテたのは間違いない。だから、断り方がパンチをお見舞いすることだったんじゃないかな。そうしないと先生自身が大変だったと思うんだ。殴られて、大体の場合はそれで終わった」  まるで事件を推理する探偵のようにすらすらと口から出すと、また眼鏡の縁を押す。 「どう、僕の見立ては」 「……ああ、うん」  伝馬はぼんやりと頷きながら、二個目のおにぎりを食べ終わって、包んでいたラップをくしゃりと丸める。全然頭になかったと思った。先生がモテるとか、他の生徒たちからも告白されたかもしれないとか。  ――俺には関係ないし。  ただ自分の気持ちを純粋に伝えたかっただけで。  うーんと両手で頭を抱え込む。まさに圭が指摘した通り、猪突猛進そのものだ。 「どうしたの?! でんまー!」  すぐ側からびっくりした声が湧き起こる。  少し意気消沈していた伝馬も、そんな伝馬に声をかけようとした圭も、見事に揃って勇太を振り返る。  今まで炊き込みご飯を食べることだけが人生になっていた勇太は、そんな人生から目が覚めたような顔で心配そうに伝馬を見つめている。

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