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第二話⑥

「いや、勇太こそどうしたんだ?」  当然のように伝馬は聞き返す。 「え? 俺はゴハン食べ終わったよ」  こちらも、さも普通に返答する勇太である。やはり伝馬の話もその後のやりとりを聞いていない。  圭が再びお箸を握って茹でたブロッコリーを食べながら、手短に話の流れを説明する。 「伝馬は副島先生に告白したけれど、告白の仕方を間違えて落ち込んでいるんだ」 「ええ! そうなの、伝馬?」 「……いや、よくわからない」  某ホームアローンの主人公がやるキメ演技のように両手を頬っぺたにくっつけてびっくりする勇太だが、はっきりいってちゃんと理解していない。そんな勇太のリアクションから長年の経験でわかっていないことを把握する幼馴染みだが、圭のショートカットな説明にいまいち納得できないでいる。  そんなこんなな友人二人を眺めながら、本当に凸凹コンビだと感心して圭は弁当箱を(から)にすると、ラストを締めくくる。 「で、伝馬はこれからどうするの?」 「……どうって?」 「このままパンチをされてお(しま)いにする?」  ちょうど昼食時間終了を告げるチャイムが鳴り響く。 「あ! 教室に戻らなきゃ!」  炊き込みご飯を食べ終わってもうお腹が満腹だからか、勇太はプラスチック製のタッパーをランチバックに突っ込んでまっさきに立ち上がると校舎へ走る。圭は呆れたような一瞥を呉れたが、手早く唐草模様の風呂敷で弁当箱を包み、勇太に続く。  伝馬もゴミを握りしめて、二人を追ってその場から駆け足で離れる。だが薄暗くよどんだ(もや)が心にかかって、一向に晴れなかった。  放課後、今日も一日無事に終了したと胸を撫でおろしながら職員室のドアを開けて、一成は自分の席に着く。すると隣でメールを打ち込んでいた古矢がくるりと椅子を回転させて「一成!」と溌溂(はつらつ)と声をかけてきた。 「今日もご苦労さま! お疲れだね!」  思わず一成は口を黙らせたくてパンチしたくなったが、理性が止めてくれた。 「松本先生はいつも元気ですね」  高校時代では先輩後輩の関係で、同じ教壇に立つ立場となってもその延長線上だと認識しているらしい古矢は、一成をいまだに名前で呼ぶ。元担任の順慶をじいさん呼びする一成もその辺はうるさくはないが、古矢に対しては会話が鬱陶しいという気持ちが先に立つので、長いお喋りを牽制する意味を込めて先生呼びしている。 「そう! 今日の僕は全然駄目なんだ! どうしてか聞いてくれ!」  勿論古矢にそんなガードは効かない。俺は忙しいんだと言いかけた一成の意向などガン無視して話を始めようとしたところ、ガツン! という激しく物がぶつかる音がしてストップした。 「五月蠅(うるさ)い」   書類や本が積まれている机の向こう側からのっそりと顔を上げて睨んできたのは理博(りはく)である。

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