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第二話⑩
「お前の言い方は思いやりが足りない。教師としての責任を持って、生徒たちを教え導くという使命をちゃんと全うしているのか甚 だ心配だ」
マホガニーの机に両肘をつくと、手前で両手の指を組んで一成をじろりと一瞥する。その目つきは成人した大人へというよりもまだまだ手のかかる甥っ子へのそれで、口調も身内に対するお説教モードだ。一成は引き攣る口の端に命令して、教師として口答えすることにした。
「申し訳ありませんが、生徒たちが楽しく学べる学園生活を送るために日々奮闘しておりますので、生憎ですが、理事長の要請にすぐには応じられませんでした。これでも教師としての責任を持っていますので、生徒たちを教え導くという使命を全うすることに全力を注いでいる次第です」
文句があるのかと不穏に匂わせて、一成は口元でいつでも言い返せるように戦闘態勢を整える。子供の頃から口うるさい叔父貴だったと頭痛がしてきた。
冴人は両手を組んだまま睫毛を伏せると、盛大にため息をついた
「お前は本当に可愛くない」
一成も対抗してため息をつきたくなった。今日は俺が可愛くないとケチをつけられる日なんだなと。しかし、だからどうしたという心境である。
「俺が可愛くないのは今に始まったことじゃないだろう。それよりも、ここへ呼んだ理由を早く言ってくれ」
「お前の良い点は、正確な自己分析をしていることだな」
五十代になっても端整な顔立ちを維持している冴人は、ニコリともしないで切り出す。
「私が留守の間に、何かあったか」
一成は嫌な予感が当たったというように、思いっきり顔をしかめた。
「何もない。大体、俺はいつ叔父貴が不在になったのかも知らないんだからな」
マホガニーの机に向かって猛然と身を乗り出す。
「大方その用件だとは思ったが、毎回毎回、同じ質問を繰り返すのは止めてくれないか。俺よりも副理事長や校長に聞いたらどうだ」
「聞いている。お前に言われるまでもない」
冴人はにべもない。
一成も負けない。
「だったら、それで十分だろう。ことさら俺に聞く話か」
断固とした顔を突きつけて訴える。
副島理事長の返事は至ってシンプルだった。
「勿論だ。なぜならお前は私の甥だからだ。甥は叔父を助けなければならない」
鼻先にいる甥の迫力ある顔面に圧力をかけられても、眉一つ動かさない。
一成はがっかりしたように肩を落とすと、やおら後退 って姿勢を元に戻した。冴人は自分が不在の間、学園で何かあったか必ず一成に聞く。それに対する一成の返答は毎回「何もない」だ。毎回何かあってたまるかというのが一成の感想で、たぶんに常識的な考えだろう。報告なら松永副理事長や大ケ生 校長で済む話なのに、なぜ俺にも聞くと一成はその都度抗議して、その都度退けられている。
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