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第二話⑬

「迷惑じゃない。俺がお前の気持ちに応じられなかっただけだ」  伝馬の気持ちに寄り添うように柔らかく言う。 「何も悪いことはしていない。だから謝るな。顔を上げろ」  時間が経って心が冷静になった結果、少しは理性的に考えられるようになったのかもしれない。まだ高校一年生なのだ。良いにつけ悪いにつけ素直だ。 「変に思い詰めるな。桐枝のいい所はまっすぐなことだ。それを忘れるなよ」  伝馬の右肩をポンと叩く。重く考えるなというメッセージだ。  伝馬はややびっくりしたように頭を上げて自分の肩へ目を落とし、すぐに一成へ向き直った。顔立ちは真面目そのものだが、緊張が(ほど)けたのか硬さが消えている。 「ありがとうございます」  律儀に三度(みたび)頭を下げる。  一成は苦笑した。 「桐枝のそういうところ、すごくいいぞ」  多少馬鹿正直だと感じたが悪いことではない。年齢を重ねて社会人としての経験を積んでいけば色々と変化せざるを得なくなるかもしれないが、伝馬なら大丈夫だと思えた。  ――入学式が始まるのに桜を眺めていたからな。  あの時のことを思い出すと今でも表情が崩れる。教師になってから様々な生徒たちと接してきたが、一人一人自分の色を持っている。伝馬は基本マイペースだろう。それに何度も感じているが頑固だ。 「早く部活に戻れ。俺も職員室へ戻る」  一成は夕焼け色に染まる廊下の窓を振り返った。伝馬はちゃんと剣道部の先輩や顧問の教員に断ってから抜けてきたに違いないが、戻りが遅くなるのはよろしくない。自分もテストの採点が待っている。 「わかりました」  伝馬は改まったように姿勢を正した。 「聞いて下さってありがとうございました」  清々しく一礼する。一成は気持ちの良い風を浴びたように目元をゆるめた。 「何かあったら、いつでも聞くぞ。遠慮はするなよ」 「はい」  伝馬はしっかりと返事をして踵を返した。が、忘れ物を思い出したように肩越しに振り返ると、躊躇いもなく一成へ視線を向けた。 「あの、俺もう一度やり直しますから」  まるで迷いが吹っ切れたかのように晴れ晴れとした顔つきを見せて、早歩きで離れて行った。 「……」  一成は狐につつまれたような気分で遠ざかっていく伝馬の姿を追う。もう一度やり直す?  何を?

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