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第四話⑤

「それじゃあ、考えよう」  圭は伝馬と勇太を見回して、作戦会議よろしく場を仕切る。 「もう一度、伝馬が先生に気持ちを伝えるとして、どうしたらストレートパンチを回避(かいひ)できるか」  伝馬は口におにぎりを含みながら首をひねる。何か変に違うような。だが圭は五目御飯完食に邁進(まいしん)中の勇太を素通りして、伝馬へ無慈悲に投げかける。 「で、伝馬の考えは?」  で、ってどういう意味だろうと謎に感じながらも、人の良い伝馬はおにぎりを食べ終えて、ペットボトルの水を一口飲み、手でさらっと口元を拭って返答した。 「先生の迷惑にならないように伝えること……じゃないかな」 「そうだね。そのためにはどうすれば良いか、考えようか」  圭は穏やかに頬をゆるめる。見当違いに(りき)んだ言葉が出てこなくて安心したようだ。  うん、と伝馬はペットボトルに口をつける。そこが難題なのだとわかったが、いかんせん、何も浮かばない。 「圭だったら、どうする?」  頭が良く、常識的な友人の意見こそ聞きたい。  圭は考えるまでもないというように、さらりと口にした。 「僕なら押し倒すところだけれど、仕方がないから卒業するまで待つ。その間、先生に好きな相手が出来ないように見張る」 「……」  シーンとなる。いや何を喋っているんだと突っ込みたいワードがフルスロットルで出てきた。だが圭は顔色を変えず結構な本気モードで言い続ける。 「僕ならストーカーになるかもしれない。でも自分が我慢し続けるには、それくらいやらないと将来的に後悔する」 「……いや、俺は……」  そういうことは無理だと言いそうになって、一歩手前で言葉を吞み込んだ。圭が傷つくかもしれない。しかし当の本人は風に吹かれるイチョウの木の下で、すました顔をして胡坐(あぐら)をかいている。 「ちゃんと自覚している、キモいってことは。でも僕はいたって普通だから」  だから大丈夫というように指先で眼鏡の縁を触った。自分のキモさを自覚しながら気持ち悪い言葉を吐き出すのは、ある意味ヤバいじゃないかと伝馬は普通に思ったが、圭との友情を壊したくなかったので黙っていた。 「あのさ」  突然第三の声が割り込んできた。伝馬も圭も同時に声がした方へ振り向く。お弁当の五目御飯に全人生をかけて食べていた勇太が、その人生を終えて空のジップロックタッパーと使い切った割り箸を両手に、満足そうに顔を丸くさせていた。 「そんなの、簡単だよ。まっすぐでいいんだよ」 「ちゃんと聞いていたの? 勇太」  圭は意地悪ではなく本心からの疑問形(ぎもんけい)だ。隣の伝馬も同じく思う。それくらい五目御飯を食べることに熱中していたから。

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