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第五話⑤

「僕と理博の日本史の先生だったんだよ!」  伝馬と勇太がシンクロしたように古矢へ顔を向ける。息の合ったビックリように古矢は満足げに続ける。 「今は作家なんだよ! すごいよね理博!」  突然話を振られた理博は算盤(そろばん)で左の手のひらをペタペタと叩きながら「五月蠅(うるさ)い」とごちたが、一年生二人が今度は理博にシンクロ行動したので、道徳的によろしくないと感じたのか算盤がピタリと止まった。 「お前がそんなに盛り上がることじゃない」  今までうるさかった腹いせとばかりに皮肉で古矢をブッ刺すと、自分に注目している二人にはため息で応じた。 「ここの教師だった方だ。それ以上でもそれ以下でもない」 「そんなんじゃわからないだろう理博! 数学教師ならちゃんと方程式みたく教えないと!」 「何だと?」  理博の口の端が吊り上がった。神経過敏そうな目元がひくひくと引き()り、頭のてっぺんから恐ろしい空気を立ち上がらせると、ゆらりと椅子から腰を上げる。忍耐が厳戒突破したようだ。 「お前たち、もう教室に戻れ」  嵐を察した一成は急いで二人へ両手を振る。  伝馬は不服そうに振り返った。だが一成は厳しい顔をして自分の言う通りにするよう促す。 「行こうよー伝馬。なんかヤバい」  まるで災害の前触れを感知したような口調で勇太は伝馬の背中を叩く。伝馬は教師たちのやり取りを聞きたそうであったが、勇太にも言われたので仕方なさそうに職員室を出て行った。ドアを閉める時にちらっと一成を見たが、一成は気に留めなかった。 「大体お前は五分二十一秒も遅れてきた! 私の人生の五分二十一秒が無駄になった!」 「そんな細かい数字を言っちゃダメだよ! 人生は無駄遣いしなきゃだよ! ね!」 「ね! じゃない! 遅刻を正当化するな! あの催しは大切だとあれ程念押しした私の苦労がお前の五分二十一秒で海の藻屑(もくず)に!」 「あー! そうそう! 楽しかったね理博!」  と、自分の隣で向かい合って楽しく罵り合っている二人に若干の胸焼けを起こしながら、一成は机の引き出しからプリントの束を取り出した。勇太が忘れた代物である。もう一度氏名と枚数を確認しようと思った。 「お前のパッパラ頭でよく聞け古矢! あの催しはな!」  学年主任がいればさっさと注意指導してくれるだろうと我慢しながら、なるべく集中して作業する。  だがすぐに一成はプリントをめくる手を止めた。嫌でも耳から入ってくる内容に一瞬ぼう然となって、先輩教師の胸座(むなぐら)を掴んで問いただしたくなるのをぐっと(こら)え続けた。  放課後、伝馬は颯天(はやて)と連れ立って剣道部の道場へ行くと、聞いた覚えのある大声が出迎えた。

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