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第七話①

「では、立候補者はいませんか?」  朝のホームルームで、体育祭の説明を終えた学級委員長の圭と体育委員である御子柴(みこしば)水瀬(みなせ)が黒板の前に立って教室内を見回す。七月に開催される体育祭のメインイベントである学園一文武両道会に出場するクラス代表を決めるため、まずは立候補者がいないか確認するが、メンドウクサイというエア看板を掲げている生徒たちから自主的に手を挙げる者はいない。 「じゃあ、今から名簿を配るから。クラス代表にいいなって思う奴に丸をしてね。絶対強制だから。オレが回収する時に丸がなかったら、その場で書かせるから。今から三分ね」  水瀬は前もって用意してあったプリントを手早く配ると、教室の壁時計を指して「はい、よーいどん」と号令をかける。  はあー、ふー、めんどー、うぜー、あほらしー、だるー、というお気持ち表明が生徒たちからたらたらと起こるが、水瀬は「はーい、あと二分三十秒」とガン無視している。圭に至ってはものの五秒でプリントに記入すると、後ろに回して両手で持ち、済ました顔でプリントと睨めっこしているクラスメイトたちを眺めている。  教壇の隅で黙って椅子に座っている一成は、少々感心したようにホームルームの流れを見守っていた。七月に開催される体育祭の一番の花形種目である学園一文武両道会だが、今からクラス代表者を決めなければならない。その進行役を圭と水瀬がやっているが、中々強引だ。強引にやらないと決められないと理解しているのだろう。感心したのは、にもかかわらず嫌な感じがしない。段取りが良いし、テキパキしている。前もって、クラスメイトたちにも話していたのだろう。根回しもちゃんとしていたから、ぶつくさ文句が出ながらも二人のやり方へのあからさまな反発はない。  ――リーダーシップがあるな。  圭はもとより、水瀬もみんなに言うことを聞かせられる資質があるようだ。一成は生徒一人一人の個性を把握しようと努めていた。 「はい、三分経過。終了でーす」  水瀬は机ごとに回ってプリントを回収していく。通告した通り、きちんとプリントを見て確かめている。 「それじゃ、放課後のホームルームで発表するから。みんな楽しみに待っててね」  一つにまとめたプリントを両手で持ち上げて横にフリフリすると、隣にいる圭に視線をやって、互いに頷き合い、圭が一成を振り返った。 「先生、終わりました」 「ご苦労だった」  一成は椅子から立ち上がって二人を労わると、一同を見回して「体育祭で一番盛り上がる種目だ。クラス代表になったら、精一杯頑張ろう」と締めの挨拶をするが、ドウデモイイワという生き物になっている生徒たちはドウデモイイッスという空気で返事をして、ホームルームは終了した。
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