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第八話①

「というわけで、遅くなりましたが、投票の結果、クラス代表は桐枝君に決定しました」  朝のホームルーム、教壇の前に立った水瀬がぐるっと教室内を見回して発表すると、ドッと歓声が湧いて全員が伝馬を見た。  伝馬は机の上で両腕を組んで聞いていた。クラスメイトたちから一斉に注目を浴びて(はや)し立てられても、頑固そうな眉はブレることなく、意志が硬そうな口元は真一文字に結ばれ、一切身動きせずに前だけを見つめている。そのいかにもやりたくありませんという様子から、クラスメイトたちは早々に伝馬から視線を離すと、自分が選ばれなくて良かったという正直な気持ちの発表会になった。水瀬も「それじゃ俺たちも応援するから。頑張ろう、桐枝君」とマニュアルに書いてあるようなエールを送って、さっさと席へ戻った。  伝馬はこの時、超絶シラケていた。  実は登校してすぐに、水瀬と圭から自分がクラス代表になったことを伝えられた。驚いた伝馬だったが、さらなる事実を告げられた。昨日の投票結果で上位二名が同数だったのだ。その二名とは伝馬と鷹羽(たかばね)遼亜(りょうあ)で、だから昨日の放課後に発表できなかったのだという。昨日欠席していた一人が今日は登校してきたので早速話をしたところ、その欠席者がなんと遼亜で「じゃあ、俺は桐枝に投票する」とあっさり言い、クラス代表が伝馬に決まったのだという。  二人から説明された伝馬は思わず首をかしげた。なんかおかしくないか? と真面目に思った。俺が鷹羽の立場だったら、やっぱり相手に投票するぞ? だって自分やりたくないだろう? それなのにこんな決め方ってあるのか? どう考えてもおかしくないか? 俺、納得がいかないんですけれど? 「しょうがないよ、伝馬」  その日の昼休憩時、教室の窓側の席で食べていた圭は、綺麗に形が整った玉子焼きを淡々と頬張る。 「これが多数決のルールだから。民主主義国家の宿命だね」 「宿命とかそういう大袈裟な話じゃなくて。同数だったら決選投票したらいいだろうって」  やっぱり納得がいかないと、餡バターのコッペパンを少々乱暴に食べる伝馬である。 「あのさ」  圭はいったん弁当箱の蓋の上に箸を置くと、眼鏡の奥にある目をちらりと伝馬へ向けた。 「昨日休んだ鷹羽にも投票権はあるんだから。鷹羽が別の奴を選んだら、上位二名で決選投票したけれど、鷹羽は伝馬を選んだ。だから伝馬が一位になってクラス代表になった。これのどこがどうおかしいのか、僕が聞きたいよ」  立て板に水のごとく説明されて、伝馬はうっと詰まった。基本性根がまっすぐなので、まあ自分が駄々を()ねているだけなのはわかっている。遼亜とはお互いにクラスメイトである以外に接点はないので、嫌な気持ちなど持ってはいない。要は自分がクラス代表になりたくはなかったというだけである。

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